ウェブマガジン カムイミンタラ

2000年11月号/第101号  [ずいそう]    

シマフクロウの未来
中川 元 (なかがわ はじめ ・ 斜里町立知床博物館館長)

絶滅が危惧される鳥として最も知られるようになったシマフクロウ。1980年代半ばから巣箱かけや給餌など様々な保護対策がなされてきた。その効果もあって何とか減少傾向に歯止めがかかり、知床では生息数の回復が感じられるようになってきた。といっても、北海道の推定生息数はわずか120羽ほどにすぎない。いま、観光地の土産物店にはシマフクロウグッズがあふれているが、実際に生息しているシマフクロウの数を知ったら観光客も驚くだろう。

シマフクロウが営巣できる樹洞を持つ大木はほんとうに少ない。北海道で繁殖するシマフクロウのつがいの多くは人工の巣箱を利用している。毎年巣立つ幼鳥の大部分は巣箱の中で生まれたものだ。巣立ったあとも試練が待ち受けている。生息に適した環境、餌が豊富で大木の茂る河畔林をもつ環境には、すでに他のシマフクロウが生息している。自らが生息できる環境、定着できる場所を探して旅に出なければならない。しかし、そのような場所はわずかである。旅の途中、また運よく定着できる場所が見つかったとしても、そこには様々な危険が待ち受けている。

知床では、昨年と一昨年で3件のシマフクロウの事故が起きた。電柱の上での感電死、交通事故死、海岸に捨てられた網に絡まっての死亡。シマフクロウが新たな生息地として選ぶ場所には、人の活動と関わらざるを得ない場所が多い。人里離れた奥地に新たな生息地を求めることはもう難しいのだろう。保護対策が効果をあげ、毎年多くの幼鳥が巣立っても、彼らが安心して生息できる場所が確保されなければ、数の増加にはつながらない。危機的状態から抜け出すこともできない。

シマフクロウの未来を明るいものにするためには、河畔林の保護や餌の確保が第一に重要だ。それに加えて、人の活動領域の周辺でも生息できる条件をつくること。様々な阻害要因を除去し、人との共存を図る知恵と実行が、いま必要だ。

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