朝早く起きて、工芸館の裏山を一回りして前庭に出る、というコースがいつの間にか日課になってしまった。花を摘んで館内に活けるためである。活ける、といっても、花器の数で70近くもあるので、毎朝3時間はかかるのだが、朝露を踏みながら、草木を見ながら、花を摘みながらの一時の散策は実に楽しい。
ことに、前庭に立って、四囲をぐるりとかこむ大雪の連峰を眺める時の爽快さは、何とも形容しがたい。季節ごとに変貌する大雪、晴れあがって、くっきりと、絵画のような風情の稜線をみせる日も、霧が満ちて、さながら煙るようにおぼろの全形を描く時も――と、凡百の事例を様々に見せてくれる。万緑の候に、頂に雪の白い稜線の残るのも、わが大雪ならではの“神秘”なのである。
工芸館を訪れる方々が、前庭に立って歓声をあげる。山容の、きわだったひとつひとつを指さして、あれは何?、と山の名前を知りたがる。
私は心ひそかに、ここが大雪連峰を最も雄大に見渡せるところ、と自賛している。幽遠なるわが大雪の全容が目の前にある。
また、この前庭に立つ、歌人宮柊二氏の秀歌といわれる。
大雪山の老いたるきつね毛の白くかはりてひとり径をゆくとふ
の歌碑が、ここと大雪との間をある情感で結びつけている。
北海道を旅する本州の人たちにとって、北方は独特の魅力を発散する。これで何度目の北海道旅行、という人が目にみえてふえてきている。そのような旅人にとって、大雪は本州とは異質の象徴的な大自然のようである。北方(亜寒帯)の自然である。この北方(亜寒帯)の文化として、地域の風土に根ざした工芸があった、といわれるような、そんな染織工芸をつくり出していきたい――と考えている。毎朝見る大雪の山並みは、いつもさわやかに美しい。