ウェブマガジン カムイミンタラ

2001年05月号/第104号  [ずいそう]    

ダルカチと60人の蒙古人(ジンギスカンの大量報復思想)
瀧澤 嘉一 (たきざわ よしかず ・ 北洋銀行専務取締役)

上司から課題を与えられて、解決策をなかなか編み出せなくなると、いつも思い出すことがある。それは世にいう「ダルカチと60人の蒙古人」という言葉である。

ジンギスカンの軍隊の数は16万人程度だ。これでは世界中にちらばる占領地域に各々駐屯部隊を残そうとしても、とてもこんな兵力では足りない。しかし、ジンギスカンは、この大きな制約を見事に突破した。つまり、ジンギスカンの軍勢は、1つの都市を支配しても、ダルカチ(隊長)と親衛隊60人しか置かなかったのである。たとえば、サルマカンドやポハラという都市は、当時、人口100万人を超える大都市だが、そのようなところを支配しても、ジンギスカンはダルカチと60人の蒙古人しか置かなかった。したがって、蒙古人がいくら強いといったところで、ひとたび反乱が起きれば、ひとたまりもなく殺され、支配など潰え去ってしまう。

しかし、それで反乱が成功するわけではない。そんなことが起こり、ダルカチが殺されたとなれば、日を置かずして蒙古高原の彼方から蒙古の精鋭騎馬部隊が駆けつけ、その町の生きとし生けるものをことごとく殺戮したのである。こうした噂が二度三度と流れるにつれて、反乱を試みるものはいなくなる。だから、60人の軍隊と1人のダルカチで人口100万の都市も統治することができる。この大量報復思想を統治手段として史上初めて導入したのがジンギスカンであった。

自分の発想の貧困さ、考え方の浅はかさを日ごろ恥じ入っている私であるが、それにしても、この大量報復思想は、一銭の金もかからないものすごい戦略だとただただ感心するほかはない。

それにしても、今の日本はどうなのだろうか。フロー、ストック両資産のデフレで、これからの脱却は至難の業とはいえ、金あまりで何不自由ない今の日本でどうして経済政策の手が打てないのか。たった1人のリーダーもいないのか。経済大国、経済学小国で、真の提言のできる経済学者がいないのか。まことに不思議と思う今日、最近である。

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