ウェブマガジン カムイミンタラ

2001年09月号/第106号  [ずいそう]    

「聞き書き」学会
神谷 忠孝 (かみや ただたか ・ 北海道文教大学教授、北大名誉教授)

「聞き書き」の歴史は人間の歴史とかかわりがある。聖書、論語、「古事記」などは口承で伝えられたものを文字にしたことで成り立った。歴史学でのオーラル・ヒストリー、社会学でのフィールド・ワーク、マスコミでのインタヴューなども、広い意味での聞き書きといってよいだろう。

2000年10月に札幌で発足した「日本聞き書き学会」で、私は会長を引き受けることになった。全国的に聞き書きは実施されているのだが、北海道で学会を立ちあげた意味は、北海道の開拓に従事した人たちが老齢化し、今のうちに聞いておかなければ、永遠に歴史の闇に消えてしまうと考えたからである。

第1回には聞き書き講習会に参加した40人のうち16人の人が作品を提出した。400字詰めにして100枚以上という条件をクリアした14篇を、7人の研究部会員が審査して5篇にしぼり、2001年3月24日、北大の学術交流会館で公開審査を開催した。激論のすえ、第1回松浦武四郎賞には、帯広の三上大輔氏が大森楚夫さんから聞き書きした「もうひとつの開拓」が入賞し、賞金100万円を獲得した。大森さんは長野県生まれ、15歳で満蒙開拓少年義勇軍に参加した。その後召集されシベリヤ抑留体験を経て戦後十勝に入植して成功した人である。他の佳作2篇もそれぞれ読みごたえがあった。

第2回はすでに講習会が終わり、受講生60人余りは今年中の締め切りに向けて活動をはじめている。来年の第3回で一応全道を網羅することになるが、その後の存続に向けて会員を募集中である。身近にすばらしい人生を送っている人がいて、その人が自分史を書く可能性がない場合、その人こそ聞き書きの対象なのである。私は文学研究者のひとりだが、有名人でない人の生き方にふれて新鮮な気持ちを味わっている。

◎このずいそうを読んで心に感じたら、右のボタンをおしてください    ←前に戻る  ←トップへ戻る  上へ▲
リンクメッセージヘルプ

(C) 2005-2010 Rinyu Kanko All rights reserved.   http://kamuimintara.net