ウェブマガジン カムイミンタラ

2002年03月号/第109号  [ずいそう]    

ビートの花
五十嵐 紀子 (いがらし のりこ ・ 士別市・恵泉レディースファーム代表、農業)

夏のある日、小説家の友人に、不思議な質問をされた。

「ビートの花って、ドライフラワーになる?」

私はおもわず「エーッ、ビート?ビートって、あの砂糖大根でしょ。なんで?」と、聞き返した。

「ウン、今度の小説の題材にしようかと思って」と、彼はうれしそうに言うのである。

我家は毎年ビートを作っているし、サイドビジネスのように、ドライフラワーを作り、教えたりしているが、ビートの花のドライフラワーなど考えたこともなかった。

そこで私は講釈ぶって、こう言った。

「あのネ、ビートのそもそもの役目は、地下のカブのような根が大きくなって、それを絞って砂糖をとりだすんだから、花が咲いたら、その根は大きくならないんだよ。なにしろ花を咲かすほうにエネルギーがいくんだから、収量も落ちるし…。今は、そうならないように改良されているんだよ。普通の畑では花を見ることは困難じゃないかな。でもネ、タネを採る専門の畑、つまり試験場のようなところでは見られると思うけど……」

ここまで言っても、彼はまだ納得しない。そこで私は、最後の切り札のように言った。

「ビートは、ホウレンソウの仲間だから、花もホウレンソウによく似ていて、緑色のあんまり目だたない花だから、ドライフラワーにしてもおもしろくないかもネ」

彼はちょっぴり肩を落とし、「そうか、ダメか」と言って、その日は別れた。

秋になり、ビートの収穫が始まった。ビートの畑に行って、まず驚いた。数は少ないのだが、花が咲いているのだ。枝分かれた数多くの茎に、小さな星形をした緑色の花がびっしりとつき、所々曲がりくねった茎が個性的でなかなかいいのだ。さっそく切りとり、乾燥させ、色とりどりの花たちと花束を作った。

これは、あの彼に知らせなくてはと思いつつ、まだ彼には話すチャンスがない。

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