サラリーマン建築家であったころの習い性で、月々定期的な収入がないとどうも落ち着かない。そのような理由で、数年来、建築学科のある大学で非常勤講師を続けている。本業の設計依頼が少ない時は、私の目の前で真剣に話を聴いている学生さんたちが、クライアントの大集団に見えてくることがある。住宅建築家のせつない願望である。独立自営の建築家とはいっても、台所は火の車なのである。仕事は必ずしも定期的に入ってくるとは限らず、仮に仕事が増えてもおいそれとスタッフを増やすわけにもいかないのだ。もっとうまくマネージメントできるはずだが、思うにまかせない。
振り返ってみると、今までわれわれ建築家は、一般クライアントとの出会いの仕組みをほとんど作ってこなかったようだ。しかし近年、人々の憧れとして、消費のターゲットとして、建築家の設計した住宅が、TVや雑誌等の話題となる機会が増えている。
この夏、「北の住まいを、建築家とつくろう」という小冊子が、日本建築家協会北海道支部住宅部会から出版された。建築家自身が編集し、自己紹介する本で、北海道在住の建築家、61組67名が参加している。彼らが日常の仕事場で腐心している姿や、今、考えているさまざまな事柄が、清潔感あふれる装丁とともに伝わってくる内容である。むろん、豊かな自然とおいしい空気を味方にできる北海道ならではの個性あふれる住宅群が満載された、美しい写真でいっぱいの作品集なのである。
ゆくゆくは、建築家の紹介システムや格付け、それらのアーカイブという地平を目指すことになるだろう。ともかく、建築家を身近に知る新しい本ができたことは確かだ。あなたも建築家がつくる、本の中の住宅建築群を散歩してみてはいかがでしょう。