8月末、『FBIはなぜテロリストに敗北したのか』(新潮社)という新刊を上梓した。処女作『ライカでグッドバイ』(文藝春秋)から11冊目になる。大学卒業後、出版社に勤務、初めての本を出したのが33歳の年だった。それから、21年という長い歳月のなかで、たった11冊とは寡作に違いない。
11冊目というのは、自分にとって不思議なほど重い意味を持っていた。1984年、2冊目を出した後、「ニューズウイーク日本版」ニューヨーク支局長として渡米。3年間、このニュース週刊誌で働いてから、アメリカ人ジャーナリスト・作家のピート・ハミルと結婚した。いらい、フリーランスのライターとしてニューヨークを拠点に執筆活動を続けてきたところで出会ったのが、9月11日の同時多発テロだったのである。
あの朝、トレード・センターに飛行機がぶつかったと言って、アパートへ戻ってきた夫とともに、わたしは現場へ駆けつけた。燃え上がる2本のタワーを見つめながら、あのどす黒い大きな穴に閉じ込められた人々を思うと、神に祈りたい気分だった。次の瞬間、南タワーが爆発。わたしは全速力で現場から逃げ出した。しかし、あの燃え上がるタワーの惨状は目に焼きついて離れることがなかった。
誰がどんな計画であの壮大なテロをしかけたのか、米当局はなぜこのテロを防げなかったのか……。そう思うたびに、何としてもテロに関する本を書かねばならないと突きあがるような欲求を止めることはできなかった。
恐らく、わたしはタワーのなかに閉じ込められた人々に何もできなかったという罪悪感を抱いたのかもしれない。あるいは、目撃したショックで受けた心の傷を癒したかったのかもしれない。世界は、前よりずっと危険で恐ろしいものになってきた。まして、ニューヨークは……。
11冊目が特別の意味がもつというのは、そのためである。この本を新たな出発点にして、わたしには、もっともっと書かねばならないことがたくさんあると思えるのである。