ウェブマガジン カムイミンタラ

2003年09月号/第118号  [ずいそう]    

今、感じていること
磯田 憲一 (いそだ けんいち ・ 「オフィス Isoda」代表)

長い間、日本の長期計画は、地域の「均衡ある発展」という形にとらわれてきた。しかし近年ようやく、その頑(かたく)なさから解き放たれて、地域の「個性ある発展」という言葉が違和感なく語られるようになってきた。行政機関の中にいて「地域らしさ」にこだわり続けてきた者の1人として感慨深いものがある。

岩手県は、2年前に「がんばらない岩手」という宣言を出して注目を集めた。増田寛也(ひろや)知事は、「がんばれ、がんばれ」というのは経済的尺度の象徴だという。経済の右肩上がりの時代は、「追いつき追い越せ」の精神で、地方は東京を追い求めてきた。もう少し頑張れば、東京並みの豊かさを手に出来ると言われて、たとえ発展と引き替えに独自性を失なっても、地域はひたすら走り続けてきた。「均衡ある発展」という大義名分が独自の哲学を持たない地域の行動を支えてきたのである。日本のチベットと言われて、そこから抜け出すために全力疾走してきた岩手県が「がんばらない」ところに価値があると知事は語る。話は具体的だ。岩手に最先端のビルは似合わない、木で出来た民家を守り、長い歴史に培われた南部鉄器のストーブで、間伐材などの木くずを固めたものを燃料として使おうというものだ。これまで開発のための公共投資に大きく依存してきた岩手県で、自然や地域らしさの回復へ、流れを変えようとする独自の意思の表明が「がんばらない」精神ということなのだろう。

ひるがえって北海道もまた、20世紀の遅れてきた地域と言われてきたが、その後進性と言われてきたものの中にこそ、次代の先駆性を切りひらく鍵がある。増田知事が語る通り、21世紀の価値観は大きく変わっていく。そうであればこそ従来の感覚を越える勇気を持ち、地域の一人ひとりが足元の価値を見つめなおし、暮らしや文化、産業など様々な分野で新しい価値を創造、再発掘していくことが何より大切だ。これまでのような量的拡大が望めない時代、地域の潜在力を丹念に掘り起こしていくことこそ、地域の個性をベースにした誇りある地域づくりの原動力である。

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