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2003年09月号/第118号  [ずいそう]    

映画「田んぼdeミュージカル」
斉藤 征義 (さいとう まさよし ・ 穂別町生涯学習アドバイザー)

札幌の劇場公開が好評で、心底ホッとした。素人の作った映画を、シアター・キノ代表の中島洋氏が「恥ずかしいくらい凄い。モノをつくる驚くべき凄さ」と評価してくれて、興行として上映してくれたのである。モーニングタイムの午前中2回、しかも1週間、何としても中島氏に迷惑をかけるわけにはいかなかったから、初日満席になった時は胸が熱くなった。テレビや新聞社の方々にも随分お世話になった。ミュージカル仕立てに「あの『シェルブールの雨傘』を思い出す」などという、まさに身に余る評価まで頂いた。

穂別町の高齢者による映画「田んぼdeミュージカル」の出演者125人の平均年齢は74歳。最高齢は主人公の父親役安田由造さんとカメラマンの星勇さん、83歳である。若いころ髪結いをしていたからとメイクを担当した高橋安佐子さんは77歳。約1年間におよぶ撮影に誰一人休むことなく、よくも頑張ったものだ。田んぼや畑でのロケは、町じゅうの話題になった。「まさかあいつが歌って、踊って、泣いたぞ」「みんなだんだん若くなって」。

喉頭ガンを患って声を失った柴田歌子さんは人工喉頭機による発声練習を重ねて民謡を唄った。下半身不随でひとと会うことも嫌がっていた田代政行さんは車イスで加わり、たったひとことのセリフで笑顔をとり戻した。幾度ものリハーサル、細かな演出、本番の緊張感、NG、また繰り返し、そして「はい、オーケーでーす」の声に、みんなの拍手と歓声がわく。

「食料難で苦しい時代にも、たしかに歌はあったよね」と誰かが言うと、その頃の歌がでてくる。文化は腹の足しにはならないが、困窮の時にエネルギーを与えてくれた歌や言葉を誰もが持っている。だから「田んぼdeミュージカル」には立派なホールは要らない。それが小さな町のエネルギーだと思っている。

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