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1984年03月号/第1号  [ずいそう]    

オショロコマ
鍛治 英介 (かじ えいすけ ・ 北海道スポーツ・フィッシング協会会長)

北海道の渓流に生息するサケ科の在来魚、ヤマメ、エゾイワナ、オショロコマの三種類を比較すると、ヤマメが最も体高高く扁平で、美しい流線形を誇る。これは強い水流の中で活動するに極めて有効な形だ。次がエゾイワナ。オショロコマは体高低く、丸くずんぐりして、フクドジョウにやや似た体型を持つ。またその行動も敏捷さを欠き、釣趣もヤマメの小気味良さと比べ、いかにも鈍くさい。

しかしこのオショロコマこそ、苛酷な北のフィールドに生き抜く魚の特性を鮮明に伝承する北海道の象徴的存在なのだ。

今日の日本では本道だけに分布し、三者の棲み分けが成立する流程の長い河川では、四季を通して最も水温の低い最上流部にテリトリーを形成する。だがそこは、突発的出水や慢性の水量不足に脅かされ、常に滅亡の危機にさらされる水域でもある。オショロコマのお世辞にもスマートと言えない体型は、これら生活環境の急激な変化に耐えて生きのびるための最適な身体構造なのだ。このため、降雨による大増水や鉄砲水、日照りによる水不足などには比較的平気で生きていけるが、彼等にとってもっとも恐るべきは、開発の美名にかくれた人為的自然破壊である。

橋梁架設や林道開削工事などの土砂が、大量に河川に流入するだけで生活行動半径の短い彼等は逃げ場を失い、産卵床を潰されて、多くの群が、時にはその河川のすべてのオショロコマが、簡単に死滅する。まして、ダム建設や河川改修などによる生息環境の変化は種そのものの滅亡に直接つながるのだ。

開発行為はあくまでも、主目的の経済効果だけが優先することなく、そこで生活している生物たちの、特に、魚類を始め生息地を容易に変えることができない小動物や植物などの、声なき声を充分に配慮したうえで、初めて起案されるべきだと考える。

オショロコマが絶滅するような環境の中では、人類もまた生きていけないのだから。

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