ウェブマガジン カムイミンタラ

2004年01月号/第120号  [ずいそう]    

生命のアートをみつめる人
上田 淳一郎 (うえだ じゅんいちろう ・ 編集室ユーアンドエム主宰)

先日、NHKのハイビジョン番組で、ニューギニアの熱帯雨林で極楽鳥の撮影に挑む動物カメラマン嶋田忠さんのドキュメンタリーが放映されていました。周到な準備と綿密な観察を重ねて被写体に向かう姿勢は、かつて本誌(85年11月号)で取材させていただいたころと変わらぬきびしさでした。

あのとき、取材に際して野鳥研究家の斎藤春雄さんは「嶋田君の写真は哲学の領域に踏み込むようになった」と教えてくれました。それは『火の鳥アカショウビン』(平凡社刊)の成果を評した言葉でした。取材に応じてくださった嶋田さんは、千歳川の支流で、みずからを自然に一体化させてアカショウビンを追い、紅炎の弾丸となって一瞬の捕食に挑む野生の生命活動をとらえたとき、そこに「カムイの輪郭をみた」と語るのでした。

今回、嶋田さんが密林の中に追ったオオウロコフウチョウのオスは、漆黒のからだと、胸に青く絹のような光沢を放つ独特の飾り羽根を持つ鳥です。いつもどおり周到な観察によって撮影イメージを絵コンテにし、最高のチャンスをつくりあげます。妖しいまでに美しくきらめく飾り羽根をゆらめかせ、漆黒の翼をいっぱいに広げて求愛ダンスをする幻のような光景をとらえた嶋田さんは「究極の生命のアートだ」と感動の面持ちでした。

花は小さくても大地に深く根を張り、奢ることなく群生の営みをする高山植物を「大雪の聖花」と称え、その心を北方建築のエスプリに移入した、と熱く語っていた故田上義也さんのことも思い出されます。

大都市では地上デジタル放送も始まり、高画質のニュース映像が報じられるようになりましたが、そこには生命のアートを知らない人たちの許しがたい雄たけびばかりがめだつこのごろです。本誌は誌齢20年120号を重ね、随想を寄稿してくださった人、特集の取材でお名前とともに写真を掲載させていただいた人など9百数十人が登場しています。そのどなたもが生活文化の営みのなかで創造的な輝きを放っている人びとなのを、いま感慨深く思い起こしています。

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