知床の世界遺産登録が決定した。知床の素晴らしい自然が世界的に注目をされることはとても喜ばしいことだ。多くの人が心配する視点は、「観光客が増えたら環境破壊が進みますね、どうしますか?」ということと、「自然保護が強化されれば、地元の産業に影響が出ますね、どうしますか?」ということだ。僕は正直どちらの側に立ってもこの疑問には答えられない。観光と自然保護は相反するものではなく、お互いがお互いを補完しあうべきものであるはずだからだ。
昨年、Shinraでは、世界遺産の審査機関IUCNのガイドラインである「Sustainable Tourism in Protected Areas」という本を日本語訳し、この春出版した。冒頭にこんな一節がある。
「保護区域には観光が必要であり、観光は保護区域を必要としている」。
IUCNのガイドラインの冒頭にこのような言葉が述べられていることに、正直僕たちは驚いた。と同時に、目からウロコがぼろぼろと落ちていった。
この本は自然保護と観光を背反するものとして捉えていない。ここに書かれているのは、持続可能な観光=サステイナブルツーリズムの戦略についてだ。日本の公園管理行政には、自然保護行政の専門家はいるが、それと観光とをつなぐ戦略を考える専門家はいない。海外の国立公園管理局の中にはマーケティングのセクションがあり、日本よりも積極的に「観光」という経済機能を自然保護に生かそうとしている。
そして、さらに面白いことには、民間人との人事交流が非常に盛んで、民間のノウハウが柔軟に管理行政の中に取り込まれている。自然を保護する人=行政、観光する人=民間という固定概念もこの際捨ててしまった方が良い。“サステイナブルツーリズム”の考え方にのっとって、行政体制の整備と民間の役割を整理すると、それぞれの限界を容易に超えられるような気もする。
世界遺産を機に、官民の枠組みにもう少し変化を与えたいものだ。