ウェブマガジン カムイミンタラ

2005年09月号/ウェブマガジン第5号 (通巻125号)  [ずいそう]    

森の姿と地域社会
長原 實 (ながはらみのる ・ 旭川家具工業協同組合理事長)

麦酒の好きなとり 版画:宝賀寿子
麦酒の好きなとり 版画:宝賀寿子

私は既に半世紀にわたって木製家具製造業に従事している。室内装飾や家具に使われる木は洋の東西を問わずおおむね成長の遅い広葉樹である。成長の速い針葉樹とは違って、100~200年という時間をかけてゆっくり成長を待つしか今のところ他の方法はない。

人類は20世紀というたった100年の間にあらゆる地球資源の70%を使いはたしたと言われているが、その多くは必しも「人間の幸福」とは別な次元での戦争や経済優先主義によって消費された人間欲によるものだ。

この方向で21世紀、そして更なる未来に向かって地球環境は守れるのだろうか…答えは誰もがわかっている。そしてその責任の多くは超大国アメリカをはじめとするあの傲慢なサミットに参加する「先進諸国」と言われている国ぐにが基本的価値観を変更しないかぎり、人類は勿論、地球という星は残っても今までの生態系を守ることはできない。

そんなかけがえのない地球のほんのわずかな部分に日本があり、北海道がある。私はその小さな島のほぼ中央に位置する大雪山連峰の西、旭川市との間にある東川町(当時は村)に生まれ育った。

元よりこの地域には北西の季節風が大雪山を越える時に雨や雪をたくさん降らせるから、豊かな森が育ち、農業も盛んだ。旭川市も含めて、この環境はかけがえのないものであることは言うまでもない。

家具造りを職業として世界を渡り歩き、さまざまな文化と接し、その営みを観察する旅はもう40年も続けているが、かつてヨーロッパで出逢った北海道産の木材、とりわけ「みずなら」の美しさは、「これが世界一だヨ」と言ったデンマーク家具職人の言葉を借りるまでもなく、私はこの地で家具創りができることを本当に幸福だと思っている。

しかしそのみずならが今は伐れない。伐採する木がないのだ。20世紀の後半、たった半世紀の経済成長で私たちは豊かな暮らしを手にしたが、その一方で地球資源、エネルギーを過大消費した結果であり、それが更に続いている。

成長が速いから…と言う理由だけで豊かな広葉樹林を、から松ばかりの痩せた森にしてしまった「国策」とはいったい何だったのか。

この地域にふたたび豊かな森を取り戻すため、私たち木にかかわる職人がこのところ毎年数千本のみずなら植樹を行っている。100年の時間をかけたこの地に豊かな混淆樹林が復活すれば、この島で生きるすべての人びとに多くの恵みをもたらすだろう…。

21世紀後半の北海道、人口は減っても、ゆったりとした時間の中で資源の蓄積を高めながら皆んなが心豊かに暮らせる…そんな地域を夢見ている。

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