ウェブマガジン カムイミンタラ

2006年03月号/ウェブマガジン第8号 (通巻128号)  [ずいそう]    

北海道がまた行きたいと思う観光地になるために
笠井 一子 (かさい かずこ ・ ノンフィクションライター)

「オハヨー」 版画:宝賀寿子
「オハヨー」 版画:宝賀寿子

仕事柄、これまでにずいぶんと各地を巡り歩く機会があった。それぞれの地で、さまざまな風俗、習慣、文化を見聞きし、滋味を味わい愉しんだものである。ただし、いずれもほんのわずかな滞在なので、表面をさっとひと撫ぜする程度。それでもその地方独特の雰囲気、お国柄というものの一端を、いくらかは垣間見ることができたと思う。

なかでも、わたしの父親や夫の出身の地である北海道、また取材のために十年間通いつめた京都には愛着も一入だ。しかも知れば知るほど、文化は勿論、食べ物ひとつとってみても、このふたつの土地ほど対照的なところはないという気がしている。

北海道は押しも押されぬ食の宝庫。広大無辺の肥沃な大地から産する農産物や畜産物、見渡す限りの大海原から獲れる海産物の豊穣さにくらべれば、京都なんぞは月とスッポン。
いささかブランド化した「京野菜」でさえ、今やもう京都近県(北海道産もある)の助太刀がなければ“まま”ならない。京都の魚といえば鯖や“ぐじ”が有名だが、これだって元はと言えば若狭湾(福井県)で獲れたもの。なにぶん京都は海から遠い。そのうえ食材のほとんどが他力本願なのだ。

ところが“地の利”を得ないことが、かえって京料理のすぐれた技法を編み出す結果となった。乏しい材料をいかに美味しく調理し、見た目にも綺麗な盛り付けをするか。そうしたことに知恵と工夫を振り絞り、今日の京料理へと発展させたのだから。

一方、北海道の食材は手を加えずとも旨い。感動する。しかし、そういつまでもエビ、カニ、イカやトウモロコシというわけにもいかない。北海道らしく美味しい料理はないものかと鵜の目鷹の目になる。ところが目につくのは、どこへ行ってもジンギスカンやチャンチャン焼きやラーメン……。これでは、あまりに素材が浮かばれない。
そんなこんなを北海道新聞のある記者に話したところ、
「それでもいいじゃないですか。とくに道外の人からそんな事言われたくないですね」
という答えが返ってきた。

恵まれすぎの環境に胡坐をかかず、なぜもっと努力しないのか。素材の良さをさらに引き出すような料理技法、そして盛り付けやもてなし方を研究してほしい。そうすれば日本に冠たるリゾート地として、リピーターも激増するはずと思うのだがどうだろう。

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