生命は情報で成り立っているという考え方があります。生命の営みは、物質とエネルギーだけで創りだすことは不可能と思えるような奇跡なのです。何もしないでおくと生命のない物質はどんどん壊れていくし、エネルギーもどんどん減っていきます。しかし生命(人間の営みを含みます)だけが新しく形を造り出し、エネルギーを産み出します。その鍵が情報だというのです。
私は兵庫県の西宮市で生まれました。大阪と神戸の間にあるので阪神間という呼び方をされる一帯ですが、ここは南は海、北は山に挟まれた東西に細長い地域です。今では汚染のため海水浴はできなくなっていますが、子供の頃は家から歩いて30分くらいの浜で水泳を楽しみました。北に行けば六甲山があります。こういう環境で子ども時代を過ごしましたから、私は自然の中に居るのが大好きです。小中学校時代はよく庭の樫の木の上や屋根の上で勉強していたものです。
大学に入った頃にオートバイの免許をとりました。オフロード車に乗って山や川を走るのが大好きで、北海道にも何回もツーリングに来たものです。立ち入り禁止になる前の駒ケ岳にトライアル車で登ったこともあります。2004年から函館に住むようになり、やはり海と山が近いので大変気に入っています。
このように、私は人間より自然が好きです。写真も、景色は結構うまく撮れるのですが、人間を撮るのは下手です。車でアメリカ縦断旅行をしたときも、都会より国立公園を多く訪ねました。しかし、本職は人工知能の研究者です。人間の知能に興味があります。春のうららかな日に草原に座って青い空や風にそよぐ緑を眺めているのは気持ちの良いものですが、こういう時に私は、なぜ気持ちが良いのだろうかと知能の仕組みを考え始めてしまいます。オートバイに乗るのはなぜ楽しいのだろう? ゲームをするのはなぜ興奮するのだろう? それらを感じている私のこの意識(そう、今この原稿を読んでいるあなたのその意識も!)はどうやって生まれたのだろう?
意識というのは情報の操作そのものです。生命現象が産み出した最も奇跡的な形態が意識だと思います。意識を持っていることは素晴らしいことです。人生の他のことが全部付け足しのように思えるほど。