食べ物があふれ、豊かな食の時代といわれている現代。しかし現実の子どもたちの食は、とても豊かとは言えない内容のものが多い。出来合いの惣菜や揚げもの中心の冷凍食品が頻繁に食卓に上がり、野菜といえば一年中レタスとトマトとキュウリのサラダだけ、という家庭もめずらしくない。飲み物はペットボトルのお茶かジュース。味覚も栄養も片寄ったまま成長する子が多くいるのが現状だ。
私が所属する北海道食の自給ネットワークでは、一昨年から小学生を対象にした「食育講座」を開催している。7月から12月までの6カ月間、月一回土曜日に行う連続講座で、午前中は調理と食事と後片づけ、午後はその日の食材を作ってくれた農家さんや酪農家さんに来ていただき、お話を聞かせてもらうという内容だ。今年も3年生から6年生まで20名が参加している。
さて、この講座にも時代の影響を受けてか、毎年野菜嫌い魚嫌いの子が多くやってくる。私たちスタッフは少しでも子どもたちの苦手をなくし、食への興味を引きだすような内容にしようと企画を立てるのだが、なかでも毎年大好評なのが貸し切りバスを使って生産現地へ行く「体験講座」だ。昨年は長沼町の農場で野菜の収穫と昼食作り、今年は日高門別の漁師さんを訪ね、地引き網と魚の調理の仕方を体験してきた。
長沼の農場では農場主の駒谷さんに言われ、みんなとったばかりの野菜をその場で口に入れてみた。「おいしい!」と子どもたち。「そうだろう。この野菜は生きているからな。生きている野菜はうまいんだ」と駒谷さん。野菜嫌いもなんのその。その日子どもたちは山盛りの野菜が入ったカレーをペロリと平らげて帰ってきた。
今年行った日高門別では、生まれて初めての地引き網をした。銀色に輝くシシャモがぴちぴち跳ねながらあがってくると、子どもたちの口からは思わず歓声が。その後、浜のかあさんたちに教えてもらいながら、子どもたちは一人一匹ずつカレイをおろして調理をした。お昼ごはんは地引き網のシシャモを焼いたものとカレイの煮つけだ。みんな頭からむしゃむしゃシシャモを食べ、骨だけ残してカレイも食べた。「こんなおいしい魚食べたことないよ」、「オレ漁師になりたい!」と子どもたち。家に帰ったら早速カレイの煮つけを作ってみると、意欲満々で帰った子もいた一日だった。
食育講座に来る子どもたちは、本当に生き生きと楽しそうな顔をしている。本来「食」とは人にとって最も大切なことのひとつで、しかも幸せを感じるものである筈だ。しかし今は豊かさゆえに却って大切さが解らなくなっているのかもしれない。だからこそ何をどのように食べるのか、きちんと選んでいかなければならないのだと思う。
子どもたちにとって、これからの人生の食が豊かなものになるよう、ほんの少しでもそのお手伝いができることを願って食育講座を続けている。