ウェブマガジン カムイミンタラ

2006年11月号/ウェブマガジン第12号 (通巻132号)  [ずいそう]    

「真実を見る眼」を失わないために
佐々木 潤 (ささき じゅん ・ 勤務医 ―デイズ・ジャパンサポーターズクラブ北海道―)

「猪鹿蝶」<br>版画:宝賀寿子
「猪鹿蝶」
版画:宝賀寿子
(DAYS JAPAN 2006年9月号)

フォトジャーナリストで、主にパレスチナ問題とチェルノブイリの子どもたちの報道に情熱をそそぎ、また実際に救援活動もされている広河隆一さんが、2年前3月(米軍のイラク攻撃開始時)に「デイズ・ジャパン」というフォトジャーナリズムの月刊誌を創刊しました。

創刊の目的は、私には二点あるように思いました。
 まず一点目は、既製のマスメディアが権力と対峙する、あるいはその行動をチェックするという機能を失って、まるで大本営発表のようになってしまっていることへの危機感です。
 このことは私たちにとっては「ものを見る眼」「真実を見る眼」を失ってしまうことを意味しています。戦争を始めるときに為政者がまず行うことは情報を管理することですが、この国のマスメディアは「管理されている」という意識すらないようです。
 その結果、あの(米国の国会でさえ「正当性がない」ことを認めざるを得なくなった)イラクへの自衛隊派遣に対し、世論の支持が今年6月になって反対を上回る、という恐ろしい結果となっています。これは「報道しない」「話題にしない」という選択が行われた結果だと思います。

イラク攻撃開始時にミサイルを発射する米軍に「従軍取材」し、テレビカメラに向かい、高揚した声で「いまミサイルが発射されました!」、などと絶叫報道をしていた「記者」たちは、「そのミサイルが到着したところ」を報道したでしょうか?
 イラクから記者をすべて引き揚げさせた日本のマスメデイアは、カイロやアンマンで、フリーのジャーナリストや外国の通信社から記事を買い集め、「現地報告もどき」の記事を作っていたのではなかったでしょうか?
 バクダットへ米軍が入ったときに、「我々はバクダットへ入りました」と平然と報道した記者の視点はどこにあったのでしょうか?
 イスラエルのヨルダン攻撃を報道するより、ワールドカップの「頭突き」のほうが大切なのでしょうか?

二つ目は、良心的なジャーナリストの発表(報道の場)が失われつつある、という危機感があります。イラクやアフガニスタンの現場から(戦争を支持する側からすると見せたくない、聞かせたくない)戦争の本当の報道(極端に表現すると「死体の見える戦争」の写真)をデスクに送っても、それより上には行かないそうです。その結果、しかたなく「売れるニュース」だけを送るようになってしまうといいます。
 このことは戦争報道に限らず、社会的弱者に関する問題提起の報道でも同じだといいます。そうしたことから、本来の仕事をしているジャーナリストに「発表の場」をつくり、若いジャーナリストを育てなければ、という気持ちがあるようです。

昨年夏にデイズジャパンの写真展「地球の上に生きる2005」が札幌で開催されたときに広河さんが来札講演され、そのあとで、「デイズジャパンサポーターズクラブ北海道」といういわゆる「勝手連」を立ち上げようと言うことになり、私も参加しました。サポーターズといってももちろん編集の手伝いをしたりするわけではありませんし、会費を払ったりするような組織でもありません。ビジュアルジャーナリストの講演会や写真展などの実現を通じてデイズジャパンへの共鳴者を拡大していくことが本来の活動だと思いますが、皆、経験も少なく仕事を持ちながらの活動で、なかなか前に進まない状態です。

しかし、国際的な高い評価にもかかわらず、編集部が経済的にもマンパワー的にも「火の車」であることを伝え聞くにつれ、なんとかこの雑誌を存続させなければと思っています。
 当面この雑誌とこの志を支えるために私たちができることは、この雑誌を知人に紹介し発行を安定したものにしていくことです。メンバーは機会を見つけては小さな会合に顔を出し、デイズの紹介と見本誌の販売をさせていただきながら、お話させていただいています。また幾つかの書店でこの雑誌を恒常的に置いていただいています。丸善、紀伊国屋、旭屋、東京堂などです。
 そして来年はなんとか「私たちの眼」となるジャ-ナリストの講演やデイズジャパン国際写真展「地球の上に生きる2007」を札幌でも実現したいと思っています。

「戦争」報道のことばかりを書きましたが、「デイズ・ジャパン」の内容はそればかりではありません。核、原発、公害とその後、ハンセン氏病や環境と自然、貧困、憲法、女性など広い範囲にわたり、私たちが目をそらしてはならないテーマばかりです。そして、その視点は一貫して「被害を受ける側」「弱者」にあります。

「一枚の写真が国家を動かすこともある」
「人々の意思が戦争を止める日が必ずくる」

ある程度年輩の方でしたら、ベトナム戦争時に沢田教一さん、石川文洋さんなどの写真とその報道が人々の意見や行動に大きな影響を与えていったことを覚えておられると思います。状況はより厳しく、何も知らされないまま、まるで既成事実として物事が進んでいます。私たち自身の足元が危ないのです。
 そんな中でこの雑誌と志を支えることは、私たちの「意思表示」「抵抗」のひとつだろうと思っています。
 この雑誌が100%正しいとは言いません。しかし今こそこういう雑誌が必要だと思うのです。
 ぜひ一度、書店や図書館でご覧になり、もしよろしければ購読し、この雑誌と志を支えてください。そしてお知り合いにお話してみてください。

関連リンクDAYS JAPAN  http://www.daysjapan.net/

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