ウェブマガジン カムイミンタラ

2007年03月号/ウェブマガジン第14号 (通巻134号)  [ずいそう]    

刷毛だこ
内藤 英治 (ないとう えいじ ・ 有限会社 内藤表具工房 代表取締役)

「刻」<br>版画:宝賀寿子
「刻」
版画:宝賀寿子

ある会合の席で「刷毛(はけ)だこ」のことが話題になりました。
―最近、"刷毛だこ"のある職人を見かけなくなった―

あまたの職種と同様に、表装・表具の業界においても、手作業を少しでも減らすために機械化(プレス表具)が進んでいます。機械がメインで手はサブになってきています。

糊刷毛(のりばけ)に糊を含ませ、紙に糊付けをして、撫刷毛(なでばけ)を使って貼る―この作業の繰り返しのうちに、指に水ブクレができる、破れる、糊が染み込んできて痛い―そして、"たこ"になる。

"たこ"は職人の誇りであり、自慢でもありました。"たこ"はすべてを身につけていました。
 たとえば、掛軸づくりの場合、書・画の美術作品を保存する、美しく表装をして観賞できるようにする、古くなったり汚れたりしたら元の作品に戻して、洗濯をし、仕立て直しをして、再び生き返らせる。そんな技法をです。

ところが、少しでも楽をしたいと機械を作り、使いだすと、刷毛は用無しとなり、"たこ"も消えてきました。大切な技法が少しずつ省略されるようになり、大変なことも起きてきました。
 掛軸など、プレス表具でいちど糊付けしたものは、剥がすのがとても困難です。再び仕立て直しをして生き返らせようとするとき、再生させるどころか、作品そのものを台無しにしてしまいます。

ですから、表具を依頼する、あるいは表具物を買い求める時には、伝統的工法で作られたのか、機械(プレス式)工法なのかを確認することが重要です。また、工法の見える店に出向くことも大切です。

こうして、今日、掛軸の大半が機械で作られ、手づくりの温もりと大切な技法がなくなってきています。
 しかし、"たこ"が全滅したわけではありません。それどころか、大きな声で警鐘を鳴らしています。それも、他の多くの業種の"たこ"たちと一緒になって…
 『どこかで迷い道に踏み込んではいませんか』と。

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