「きたみ? それってどこにあるの?」。
今から10年前、夫の仕事の転勤先を告げられた、私の第一声でした。自称「北海道旅行フリーク」の私が初めて聞く地名。いったいどこだろうと地図を見たら、なんと何度も訪れていたサロマ湖や網走、知床と同じ道東ではありませんか。確かに、北見には有名な「観光地」がありません。本州から来る観光客は、旭川方面から網走方面へ向かう国道39号で素通りするだけ。道路の案内板で名前はあったとしても、私の記憶には残っていなかったのでしょう。
そんな「単なる観光客」だった私ですから、北見市に引越すことになり、素直に喜ぶことができませんでした。「観光に行くにはいいけど、住むのは・・・」というのが正直な思いだったのです。ところが、実際はまったく逆。半年、1年、2年と経つうちに、「私が大好きだった『北海道』は本当の北海道じゃなかった」と思うようになったのです。
北見で暮らす前、私が楽しんでいたのは「観光客向け北海道」。有名な観光地で写真を撮り、観光客向けのお店で食事をし、観光客しかしない体験をする。大型のホテルはほとんど一泊二食付き。お昼は、異動中のドライブインで食事をするだけ。季節は、涼しい夏がメインで、冬はスキー場に行くだけ。でも、暮らし始めてわかったのです。北海道の最大の魅力は、観光地でもアウトドア体験メニューでも、カニやイクラでもない。「北海道生活」だと。
渋滞も満員電車もない。駐車場を探して放浪することもない。お受験もない。あるのは、美味しくて安い食材と、子どもたちが遊ぶ公園と、温かい人々。週末は天気と相談しながら、家族でキャンプをしたり、カヌーに乗ったり、庭でバーベキューをしたり・・・。そして、春夏秋冬メリハリのある四季は、自然の色鮮やかな風景を毎年楽しませてくれます。そう、この「生活」こそ、何よりの北海道の魅力なのです。
観光は「非日常」を楽しむこと、と言われています。だから「生活」は「観光」にはなり得ない、というのが常識です。でも、本当にそうでしょうか。「北海道生活」が本州の人たちにとっての「非日常」になるとしたら、それは「観光」となり得るのではないでしょうか。
去年の夏、「北海道ロングバケーションステイ」と銘打って、首都圏の家族5人を招待し、北見市にある庭付き一軒屋(空家)で8泊9日を過ごしてもらいました。彼らにとって思い出深かったのは、「牧場から届いた瓶入り牛乳」だったり、「庭でのバーベキュー」や「芝生の水やり」だったり、「夜のクワガタ採り」だったり、私たちの普通の生活のシーンだったのです。もちろん、彼らは「観光地」も、楽しみました。そのとき、北見市のロケーションが大きなメリットに。世界遺産の知床にも、人気の旭山動物園にも「日帰り」できるから、その日の朝、お天気によって行き先を変更できたのです。そう、有名な観光地が無くても、「北海道生活」の拠点として、北見は、新しい観光客を増やせる可能性を秘めているのです。
北海道にとって、「観光」はとても大切な産業です。だからこそ、固定概念にとらわれず、それぞれの地域の魅力を創造し、もっともっとたくさんの人に北海道を好きになってもらい、いずれは北海道に暮らしてもらいたい。そのきっかけ作りとして、「北海道生活」を、北海道の新しい観光に・・・と、これからも声を出して、伝えていきたいと思っています。