大雪山国立公園、糠平湖周辺にはアーチ橋が森のあちらこちらに見られる。これらの橋は旧国鉄士幌線の鉄道橋である。士幌線は十勝最深部の大森林から、エゾマツ・アカエゾマツを切り出し、また十勝平野の農産物を運ぶために作られた鉄路である。1939年(昭和14)、帯広と十勝三股間78.5キロメートルが開通した。しかし時代の流れと共に林業が衰退し、1987年(昭和62)昭和62年春全線廃線となった。駅舎やレール枕木などは撤去されたがアーチ橋は残されていた。
国鉄財産を管理する国鉄清算事業団の解散(1998年・平成10)に伴い、アーチ橋群も一時は解体の危機に瀕したが、地域住民主導のアーチ橋保存活動が実り、上士幌町が国鉄清算事業団から譲り受ける形で保存が実現し、大型アーチ橋12橋を含む多くの橋が残された。そして士幌線のアーチ橋群は2001年(平成13)、道選定の「北海道遺産」になった。国立公園の森林景観とあいまって美しさはもちろん、多くの人々の熱意で保存実現となったその過程が評価されたのである。
アーチ橋群の中にあって、一番の人気はタウシュベツ橋である。この橋は糠平ダム完成(1955年・昭和30)の後、放置された橋である。以来半世紀、糠平湖の荒波や大雪山の厳しい風雪にさらされ橋の表面がぼろぼろに風化し、歴史と風土を刻んだ風格が漂う。土木の専門家によると通常のコンクリートの10倍の速度で老朽化しているとのこと。つまり完成後500年以上経過!一級の土木遺産といえる。アーチ形の美しさに加え、湖に浮かぶ姿がまわりの緑と大雪山の山々と見事に調和していて、そしてダム湖の水位変動で季節により姿を変える「幻の橋」であることも魅力である。蒸気機関車が、丸太を満載した貨物列車をひき、駆け抜けた。そんな残像を感じる人も少なくない。観光資源としてマスコミや観光雑誌で紹介され、多くの人が訪れ感動している。輓馬をモチーフにした映画「雪に願うこと」でも印象的なシーンとして登場した。
しかしこの橋が完全な姿をとどめるのはあと2~3年といわれている。長年の風化に加え、2003年(平成15)の十勝沖地震で一部崩落したことが大きい。「タウシュベツ橋は滅びの美学である」、そのままそっとして朽ち行く様を見守るべきとの意見も多い。しかし士幌線の歴史、木材産業でにぎわった上士幌の歴史、先の大戦を支えた負の側面を持つ歴史、多くの人々が通った思い出を今にそして後世に伝える。このタウシュベツ橋を残すことができないものだろうか。