女性自衛官である彼女が、勤務していた道内の航空自衛隊基地内で上司からセクシュアル・ハラスメント、実際には強姦未遂の被害に遭ったのは、昨年9月のことだった。
彼女が生活する官舎(居住施設)は職場の上階にあり、職住一体という勤務環境であるが、彼女の上司はボイラー室当直勤務中に彼女を呼び出し、ボイラー室内で加害行為に及んだ。
ところが、彼女の被害は、これだけにとどまらなかった。彼女が上司による違法な行為を別の上司に相談したところ、職場内は、加害行為を行った上官をかばい、彼女は退職届を書くよう強要された。彼女は、一時職場を辞めざるを得ないと考えるまでに追いつめられたが、家族や弁護士に相談し、何とか職場に踏みとどまった。
しかし、その後も職場内では彼女を排除するような動きが繰り返し起き、彼女は弁護士に相談し、上司のセクシュアル・ハラスメント行為や職場ぐるみの違法行為をやめさせるため、2007年5月8日、札幌地方裁判所に損害賠償請求の裁判を起こした。彼女の代理人は10月15日現在総勢79名である。彼女が裁判を起こしたことを新聞報道などで知った多くの女性や男性たち、労働組合などが、「女性自衛官の人権裁判を支援する会」をつくり、彼女を、そして裁判を支えている。
彼女のラッキーカラー(好きな色)はオレンジ。裁判の日には、彼女も支援者も弁護士も、オレンジ色の物を身につけているため、法廷が、ぱっと明るい雰囲気になる。
彼女が裁判を起こしている相手は、国。公務員の場合、「上司個人」は原則として法的責任を問われないため、国を相手とせざるを得ない。
毎回、裁判には国の代理人という人たちがずらりと並ぶ。しかし、国は、彼女が受けた被害については、事件から1年以上たった今なお「不知」(事実関係については「知らない」という意味の国の主張)と述べたまま。加害行為を行った上司も処分されないままである。
民間会社であれば、上司はおそらく懲戒解雇になり、会社が彼女に対して出来るだけの対応をし、損害賠償や休職などの補償を行う形で解決をはかることが少なくないだろう。しかし、国は、事実関係についても応答せず、上司への調査結果も裁判で提出しない姿勢である。
法治国家は、法が社会のすみずみまで浸透し、正義が実現する国家をさす言葉だが、彼女が勤務している自衛隊の職場には、法が浸透しないという「異常」な状態が続いている。
札幌地方裁判所では、彼女の裁判のほか、箕輪登さんが当初は一人原告で裁判を始めた現在イラクへの自衛隊派兵差止等裁判が、11月19日の判決を待つばかりとなっている。この裁判でも、国は、イラクで自衛隊が何を行っているのかについて、一切答えない姿勢のまま、判決を迎えるところだ。
自衛隊の中の性暴力。軍隊と性暴力は切ってもきれないもの、と言われるが、彼女や箕輪さんが投じた一滴の水は、この国のあり方を変える可能性を秘めている。彼女が問いかけているのは、自衛隊の中でも女性の人権がまもられ、被害が回復することだ。
私たちも、そのような一滴につながり、この国を変えていきたいと思う。彼女の必死さは、既に少なからぬ人たちに、元気と勇気を与えている。この随想をお読みになったら、ぜひこの裁判を支援していただければと願う。
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