ウェブマガジン カムイミンタラ

2008年01月号/ウェブマガジン第19号 (通巻139号)  [ずいそう]    

食料確保のため、多くの人が農業に関わってほしい
長谷川 豊 (はせがわ ゆたか ・ 農業塾 風のがっこう 塾長)

「七福神の弟子」<br>版画:宝賀寿子
「七福神の弟子」
版画:宝賀寿子

都会の雑然とした環境の中で働くことに疑問を感じ、自然を求めたり職業としての農業へ関心を向けている新規参入者予備軍は、大都市圏を中心に多数存在している。しかし、農業という職業に就こうとする時、多くの制約があり、そのほとんどの人は道を閉ざされている現実がある。しかも農業技術を学ぶ場や資金、土地・農業機械など、越えるべき問題が数多くある。

現在は、担い手センター、市町村役場・農協等が仲介して農家に泊まり込み実習を行うのが一般的であるが、受け入れ農家が少ないのが実態だ。その理由の一つは、農家が寝食を共にすることに煩わしさを感じることだ。

そこで、「農業塾 風のがっこう」は援助活動として、基本的な体験実習、農業技術学習、新規参入者と経営者との交流会、講演や意識教育の実施、また、就農前の実践的な研修としての先進農家への橋渡しを行っている。あわせて宿泊施設を提供する。したがって研修希望者は、基本的な技術・知識を「農業塾 風のがっこう」で、本格的な研修は農家で行う。

この塾の活動目的は、地域における事業化支援と人材育成をはかることだ。特に、将来農業経営をめざす若者を研修生として受け入れ、企業人としての農業経営技術を習得させる。関係する高校生、大学生などに農業、環境保全の重要性や職業としての農業を認識してもらうために、地域と連携してインターンシップなど体験の場を設定する。その他、循環型農業について調査研究、普及啓発を行い、広く社会に提案することだ。

主な事業例として、1つは高校生、大学生対象「第2回サマー・アグリキャンプin伊達」の開催がある。伊達市を会場に全国から高校生を応募、100名規模の農業体験を企画。合宿訓練により農業に対する基礎学習、および地域の農業者の協力で体験を行い、農業の必要性を認識してもらう。また、大学生には企画運営する力と指導力、農業・農村が持つ歴史と文化を社会にアピールできる力を期待する。

2つめは、農地の土壌分析と土壌改良試験である。化学肥料や連作がもたらす影響調査。特に土壌の成分分析と改良の試験を行い、農業発展に向けて提案する。土壌サンプルを採取し、概略分析を行い、問題点を発見する。特に、二酸化炭素ガス排出防止、重金属の流失防止をねらいとしている。

3つめは、化学農薬以外の病害虫忌避材試験だ。農薬を使わない農業は難しい。しかし、安全をめざすうえではこの問題を解決しなければならない。そのためには土壌改良を行い環境を整えると共に、病害虫を寄せつけないことが重要である。

4つめとして、農業研修生の育成がある。将来農業をめざす人を研修生として受け入れ、指導支援する。2007年度は伊達2名、岩見沢2名、太陽の園農場3名が研修中である。

その他として、生産者と消費者の交流の場(出前直売所)にも参画する。札幌市「愛食フェア」、市民対象「ガーデニング、野菜栽培」講習会を開いたり、農業体験指導、専門的技術指導などの研究を行っている。また、作物の栽培を通した治療(園芸療法等)として、伊達市内の病院で毎週2時間程度実施している。

「農業塾 風のがっこう」を開設して4年目を迎えたが、我々の果たす役割はあまりにも大きい。言い換えると、それほど現在の農業にはたくさんの課題がある。燃料、流通、環境、消費、気象、そして、人とお金の問題等々。

特に人の養成は急務である。国や道も担い手養成を重要課題として動き出した。しかし肝心なことは、農業をどのような人にやらせるかである。昔の農業者のような「生産にかけては超プロ」になる経営者を求めても無理である。

塾には、年間何十人もが短期研修に入るが、ほとんど農業に関わったことのない人である。作業はこちらから指示をする。最初は頑張ってやる。そのうち、仕事のコツを覚えて自分で工夫を凝らしてやる人、言われたとおりのことをやる人、飽きてしまってだんだん作業が進まなくなる人、はじめから手を出さない人など様々である。

しかし、そのままで終わらせてしまうと農業の理解者はでない。農場にはいくつもの作業が存在する。作業は、その人の興味、関心を示す分野から入る。例えばパソコンや機械に明るい人がいれば、そこから入り、他の作業へと深まりを持たせる。この手法は他の産業のやり方であるが、これからの農業はオールマイティも必要だ。部門別のプロを養成し、そのプロの集団が一つのものを作り上げていく、そんなやり方が社会を形成していくのでないか。

現代社会は着実に変化している。その時代に合わせてすべてのものが変化するから、歯車がうまくかみ合って回転する。農業もこれからは時代と人の変化に合わせてその対応をしていかなければならないと考える。それが「農業塾 風のがっこう」の果たす役割である。

関連リンクNPO法人「農業塾 風のがっこう」  http://www.kaze-school.com/

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