ウェブマガジン カムイミンタラ

2009年03月号/ウェブマガジン第26号 (通巻146号)  [ずいそう]    

雪崩に遭遇して
植田 惇慈 (うえだ じゅんじ ・ 日本山岳会北海道支部会員)

「ティータイム」<br>版画:宝賀寿子
「ティータイム」
版画:宝賀寿子

忘れることのできない07年11月23日、われわれ日本山岳会北海道支部11名は上ホロカメットク山雪中訓練で雪崩の直撃を受け全員が埋没、4名が死亡、1人が重傷を負うという悲惨な事故に遭遇しました。当時大々的にテレビ、新聞などで報道され社会をお騒がせしたのでご記憶の方も多いと思います。

降雪で視界の悪い中、頭上に一瞬雪崩が見えたとき『雪崩だ!』と大きな声で叫び、すぐ後ろ向きになって身をかがめた直後でした。体全体に強い衝撃を受け、あっという間に雪崩に巻き込まれて50メートル流され、50センチほどの深さに全身が埋没しました。
 流されながら、「岩にぶつけられたらお終いだな」とぼんやりと考え、無意識のうちに気道確保しながら雪崩が止まる前に必死に上を目指して泳ぎました。自分が雪崩に流され、自力脱出するまで8分ほどの時間でした。

雪崩は標高差200メートルをほぼ真上右の上ホロカメットク山化物岩東斜面上から落ちてきてわれわれを直撃したのでした。デブリの深さは最大5メートル、長さ155メートル、最大幅60メートルという大きな規模でした。
 自力脱出してすぐ後ろを振り返りましたが、巨大なデブリで仲間の姿も見えず、まさに修羅場という状況で極限の絶望感に陥りました。為すすべもないという思いでした。

自力脱出してきた他のメンバーと、体の一部が雪面に出ている仲間たちを自分のスコップなどで掘り出しつつ、全身埋没している仲間を探すためにビーコンチェックなど考えましたが、人手も装備もたりませんでした。
 三段山で登攀訓練中だった『札幌中央勤労者山岳会メンバー』が、異様な雰囲気を感じ救助活動に駆けつけてくれたのはその5分後でした。その姿にどれほど勇気づけられたか、二重遭難という危険を省みず雪崩現場での迅速な指示と、日ごろ訓練されている力強い救助活動には、まさに「地獄で仏」という思いでした。

デブリ末端では『札幌山の会メンバー』が遭難者の収容、テントの設営、人口呼吸、心臓マッサージなど日ごろのセルフレスキュー活動と結束の確かさを示してくれました。吹雪模様という悪条件のなか救出活動に駆けつけてくれた方々への感謝の思いと言葉は、とても表現できるようなものではありません。

昨年、会としての一周忌を終えた後日12月18日に、遭難救助活動で筆舌に尽くせぬほどお世話になった山岳関係団体、NPO法人 北海道雪崩研究会などの皆さまへ感謝の気持ちを込めて、ささやかでしたが北海道支部としてお礼の懇親会を開催しました。
 自らの危険を省みないほどの遭難救助活動については、「いままで幾度となく雪崩遭難で仲間を失っているので、遭難した山仲間をなんとか助けたいという一念でした」とのお言葉をいただきました。

同じ事故を二度と起こさないという思いを込めた日本山岳会北海道支部雪崩研修会は2月中旬に終了し、来期継続の確認も済ませました。多くの山岳関係者、警察、自衛隊、消防署、上富良野十勝岳山岳救助警備隊の皆さまのこれまでのお力添えに感謝し、あわせて4名の山仲間のご冥福をお祈りします。

合掌

※時間や距離などは事故調査委員会報告書によります。

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