民主党を中心とした新政権が発足して1か月あまりが経ち、鳩山政権が何を目指しているかが大体見えてきた。民主党を近くで見てきた私は、実際に政権を取った時にどうなるかという不安を持っていたが、今のところその不安はよい意味で裏切られた。外交舞台でのデビューは鮮やかであった。日本の首相が国際舞台で理想を打ち出し、世界から高い評価を得たことはほとんど初めてであろう。
昨今の政治を見て、「政治とは可能性の芸術である」というビスマルクの言葉を思い出す。八ツ場ダムの中止、生活保護の母子加算の復活などなど、自民党政権の時代には出来ないに決まっていると思われていたことが、政策決定の俎上に載せられている。出来ないのは本当に不可能なのではなく、市民自身も先回りしてあきらめていただけである。選挙で新しいリーダーを選び出し、そのリーダーが官僚をその気にさせれば、今までいくつもの理由で出来なかったはずのことが、実現できる。それこそ、可能性の芸術という言葉の意味である。
今までは、政策決定の場には狭い門があり、重くて固い扉が閉まっていた。その門を通るためには、与党の政治家とつながることが必要であり、それが出来るのは組織力や資金力を持った一部の団体だけであった。逆に今は、いわば政策決定過程の重い扉が開いた好機である。
たとえば、鳩山首相が温室効果ガスの25%削減という思い切った国際公約を打ち出した。これ自体は大歓迎すべき政策転換である。国内政策によって実現を目指す時、様々な抵抗に遭うことであろう。しかし、脱自動車依存の推進、公共交通システムの充実、自然エネルギーの開発などなすべきことは山ほどある。
この種の政策提言については、既存の政治や行政の「常識」に染まっていない市民の出番である。今までは市民が何か要求しても、素人の提案として片づけられたかもしれない。発言する前に「どうせ出来るわけない」とか、「運動するだけ無駄だ」といった諦めの感覚がしばしば市民の間に支配的だっただろう。
これからは政権自体が新しい知恵やアイディアを必要としている。市民の素朴な発想から出発して政策提言につなぐという活動をしてきたNPOなど市民運動の役割が今までにないほど重要になっている。
せっかく起こした政権交代である。市民が民主党政権を大いに利用して、住みやすい社会のために政策を提案していくべきである。
[近著]
『若者のための政治マニュアル』講談社現代新書、2008年。
『政権交代論』岩波新書、2009年。