ウェブマガジン カムイミンタラ

2010年01月号/ウェブマガジン第29号 (通巻149号)  [特集]    

さっぽろを青空の見えるまちに
『市民がつくった財政白書』 発行/さっぽろの「おサイフ」を知る会

   人口190万人をかかえる大都市となった札幌市。このまちの四季折々の美しさは全国の人びとの憧れを集め、つねに「住んでみたい都市」の人気ナンバーワンです。
 その中心地、札幌駅のすぐ北側にある札幌エルプラザの一室から、2008年(平成20年)1月、『市民がつくった札幌市の財政白書』が発行されました。完成させたのは『さっぽろの「おサイフ」を知る会』のみなさん。市内10区から毎週毎週このエルプラザに足を運び、会の発足から2年がかりの大仕事でした。
 12人のメンバーはいまも札幌市の財政に目を光らせ、住みよいまちづくりを考えています。

[1]会の成立と『白書』の取り組みまで

ワイワイ和気あいあいと

イメージ(『市民がつくった札幌市の財政白書』2008年1月31日発行 頒価 1,000円)
『市民がつくった札幌市の財政白書』
2008年1月31日発行 頒価 1,000円

さっぽろの「おサイフ」を知る会(以降、「おサイフの会」)が2006年(平成18)2月の発足いらい活動拠点にしているのは、札幌駅の北側に建つ札幌エルプラザです。朝夕の通勤・通学を急ぐひとやデパートの買物客でにぎわう札幌駅周辺には、JRやバスのターミナルはもちろん地下鉄が直結していて、その便利さは市内各区から通ってくる会員たちにとって大きな魅力でした。

「おサイフの会」は毎週木曜日を定例会としています。2009年(平成21)11月26日、はじめて「おサイフの会」を訪ねたこの日、4階の「男女共同参画センター」第2研修室には部屋の予約時間の午後1時前から、すでに数人の会員が顔を見せていました。

イメージ(さっぽろの「おサイフ」を知る会 代表 飯原慶子さん)
さっぽろの「おサイフ」を知る会 代表 飯原慶子さん

「2年前に木椋(おぐら)さんのお父さんが、去年3月は私の母が亡くなり、平野さんのお母さんも9月に…。村上さんはいまお母さんをデイケアサービスに送り迎えしていて、だいたい午後3時くらいには帰ります。みんな介護があり、他の活動もやっているので、「おサイフの会」はそれぞれの都合や時間を尊重しながらやっているの。男性3人を入れて50代から70代の12人、平均年齢60ウン歳です」と、この会の代表を務める飯原慶子さんはいいます。

2008年(平成20)1月に『市民がつくった札幌市の財政白書』を発行してからというもの、「おサイフの会」ではあちこちの団体から意見を求められることが多く、この日の例会の目的は、札幌市が先ごろ市民に向けて出した『平成22年度局予算要求の概要』についてのパブリックコメント(以下パブコメに略。公的機関などが広く公に意見・情報を求める手続きのこと)を検討するとのことでした。

イメージ( 「おサイフ」の会が活動拠点にした札幌エルプラザ。 NPOやボランティア団体の活動を支援するために札幌市が建設、2003年9月開館。 北側13階建てのオフィスビルには企業が、南側(写真手前)に「札幌市消費者センター」、「札幌市市民活動サポートセンター」、「札幌市環境プラザ」「札幌市男女共同参画センター」の公共4施設が入っている。1階に資料が充実した「情報センター」があり、ほかに各種研修室、料理実習室、和室、ステージ付きのホールなどもある。◆札幌エルプラザ(総合案内)〒060-0808札幌市北区北8条西3丁目http://www.danjyo.sl-plaza.jp/information/index.html)
 「おサイフ」の会が活動拠点にした札幌エルプラザ。
 NPOやボランティア団体の活動を支援するために札幌市が建設、2003年9月開館。
 北側13階建てのオフィスビルには企業が、南側(写真手前)に「札幌市消費者センター」、「札幌市市民活動サポートセンター」、「札幌市環境プラザ」「札幌市男女共同参画センター」の公共4施設が入っている。1階に資料が充実した「情報センター」があり、ほかに各種研修室、料理実習室、和室、ステージ付きのホールなどもある。
◆札幌エルプラザ(総合案内)
〒060-0808
札幌市北区北8条西3丁目
http://www.danjyo.sl-plaza.jp/information/index.html

ところがみなさん、あいさつもそこそこに、ある新聞記事のコピーを手に手に侃々諤々(かんかんがくがく)の意見交換をはじめました。

みると、ひとつは『北海道新聞』11月25日付け朝刊のトップ記事。『駅前通地下を芸術広場に(JR札幌-大通整備計画) 地上は並木道、歩道拡幅』というもの。
 市が2005年にすでに着工している「駅前通整備計画」の全容がこのほどまとまり、JR札幌駅と大通公園をつなぐ地下歩行空間(地下通路)の3カ所に芸術・文化を発表する広場を設けるほか、地上部は片道3車線を2車線にして歩道幅を広げ、中央分離帯はオオバボダイジュの並木道、とあります。地下通路に人びとが行き交う様子を描いた完成予想図も紙面を飾っています。

もう一つもやはり『道新』の11月21日付け朝刊です。
 『SapporoをArtの街に 芸術・文化フォーラム(ACF/事務局・札幌)「ビエンナーレ」目指す』という記事。
 ACFは、札幌にはすでに大小のアートスペース、札幌芸術の森、パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)、故イサム・ノグチ設計のモエレ沼公園など芸術・文化の資源がたくさんあるが、つながりがない。札幌駅前通の地下歩行空間の開通や創成川公園のオープンが重なる2年後をチャンスに、これらをめぐるアートツアーを組むなど、札幌を芸術・文化の街として世界へ発信したいとしています。
 そして、予算の記述はないものの、札幌市が2006年から「市民の創造性で街を活性化させる"創造都市"」を掲げていることを付け加えています。

イメージ( 専用のブース(4階)を借りました。定例会のたびに膨大な資料を持ち歩く必要がなく、エルプラザの親切な対応とともにたいへん助かりました。 ブースは、より多くの市民団体を支援するため、3年間に限って借りられ、更新はできません。)
 専用のブース(4階)を借りました。定例会のたびに膨大な資料を持ち歩く必要がなく、エルプラザの親切な対応とともにたいへん助かりました。
 ブースは、より多くの市民団体を支援するため、3年間に限って借りられ、更新はできません。

それを見た飯原さんは、「札幌がアートの発進地になるというのは悪くないんですけど、じゃあ、"これ"のどこに載っていますかと市に聞いたら、予算化されていないというんです。それは摩訶不思議なことであって…」。
 この話を聞きながら、会議用テーブルの一角では村上和子さんが、このほど双子のお孫さんが生まれたという加藤夫妻のお祝いのカステラを切り分け、松岡英一さんがお茶の準備をしています。

飯原さんの言う"これ"とは、あのパブコメを求められている『平成22年度局予算要求の概要』のことでした。札幌市が平成22年度(2010年度)の予算を編成するうえで、各部局から出された予算要求の概要を公表し、広く市民の意見を募集するために作成したものです。区役所などで配布したほか、市のホームページからだれでも閲覧して意見を出せるようになっています。

イメージ(1階にある「情報センター」)
1階にある「情報センター」

飯原さんは「予算化してないというけど、『概要』の観光文化局のページには新規でシティプロモート事業というのがあって、そのなかに国際芸術展調査事業とある。これのことじゃない?。調査費が500万円ついている。それに、26ページの市長政策室ってなに? このなかにもシティプロモート戦略策定調査に750万、シティプロモート推進に1,539万2,000円。札幌駅地下歩行空間活用促進としても8,412万円…。あら、市民まちづくり局にも札幌駅地下歩行空間活用促進っていうのがあって1億7,700万ついてる…。これじゃあ私たちにはさっぱりわからないし、パブコメを求められてもどう判断したらいいのよね」。
 そして「プロモート事業は今回はじめての発表だって。これ、どうして私たちに知らされないうちに勝手に決まるんだろう」と首をひねります。

イメージ(4階のフリースペース)
4階のフリースペース

市長政策室と聞いて、「鳩山政権の国家戦略室の真似じゃないの」と松岡英一さんがジョークをとばすと、わぁっと笑いが起こります。
 「地下歩行空間の記事、総事業費252億円って書いてあるけど、当初予算は200億だったよなあ。いつのまに増えたんだ?」と加藤勉さんが続きます。

「おサイフの会」を取材するのも、みなさんが市の財政をチェックするのも、どうやら一筋縄ではいかないようです。

トンネルでつなぐまちづくりよりも先に 小学校の建設を

イメージ(加藤勉さん(左)と山崎忠明さん(右)。男性の分析力は頼もしい)
加藤勉さん(左)と山崎忠明さん(右)。男性の分析力は頼もしい

飯原慶子さん、平野紀子さん、木椋とし子さん、山崎忠明さんの4人がさっぽろの「おサイフ」を知る会を立ち上げたのは、2006年(平成18年)2月のことでした。その後まもなく8人の仲間が加わり、『市民がつくった札幌市の財政白書』が完成したのは2008年1月のこと。『白書』はまさにスタートから2年間の集大成です。

『財政白書』の冒頭は、札幌の歴史を語り、四季折々の美しさを語り、私たちのまちがどんなにすてきなまちであるかを伝えています。そして、『財政白書』をつくるにいたった2つの理由も、しっかりと書かれています。

イメージ(平野紀子さん。グラフ作成を一手に引き受けました)
平野紀子さん。グラフ作成を一手に引き受けました

190万人が暮らす札幌市は、1869年(明治2年)に開拓使が置かれていらい140年になります。この間の人口増加はとどまることを知らず、まちは現在10の行政区を有しています。冬は6mを超す降雪量があり、これだけの降雪量がある地域で人口100万を超す大都市に成長したのは、世界でも札幌市だけといわれます。
 北区、手稲区、東区は札幌市北東部に位置し、石狩湾独特の自然環境、とりわけ冬期間はシベリアおろしといわれる気象条件の強い影響を受けて強風多雪地帯となっています。

その北区新川西地区で、以前から住民ぐるみの「小学校建設運動」が起きていました。工業団地をはさんで、東地区にはふたつの小学校があるのですが、新川西地区には小学校がありません。市でも小学校の必要性から土地は確保しているのですが、10年間塩漬けのまま、冬眠状態といいます。

小学校建設運動の中心となって活動していた加藤恵子さんは、新川西地区の子どもたちは冬になると、いまも吹雪のなか屋根のない停留所でバスを待っているといいます。北区の10人の市議会議員も地域からの請願に対する紹介議員になり、議会にかけてくれるのですが、お金がないという理由で通らないことがずっと続いていたのです。
 バス停の子どもたちや市議会議員の現地調査の様子は新聞各社も取材し、毎年のようにこの問題を大きく取り上げています。


※1.札幌市民憲章

前章:
わたしたちは、時計台の鐘がなる札幌の市民です。

1章:元気ではたらき、豊かなまちにしましょう。
2章:空も道路も草木も水も、きれいなまちにしましょう。
3章:きまりをよくまもり、住みよいまちにしましょう。
4章:未来をつくる子どものしあわせなまちにしましょう。
5章:世界とむすぶ高い文化のまちにしましょう。
           (副文略)

「これじゃあ札幌市民憲章(※1)にある、未来をつくる子どものしあわせなまちにしましょう、という環境じゃないよね。そのうちあの札幌駅大通間地下通路工事のことを知って、みんな頭のてっぺんまで怒ったんです」と飯原さん。
 「私は加藤さんや切明さんたちの運動に誘われたようなものです。家も近かったし、みなさんより時間があるので代表をやってますが…。でも、私は樺太生まれで、女に学校は不要という母でしたが、うそつくな、人には親切に、兄弟は仲良くといわれて育ったので、正義感は育ったかもしれません。それにお勤めが北海道大学だったので、北大教職員組合で人間の芯のようなものを育てられた気がします。たった680mの地下通路に200億円もかけるのに、どうして小学校をつくるお金はないのかと。それで、こういう陳情をするときは何か会をつくって陳情したほうがいいということになって…」。

加藤恵子さんは35年間、障がい児学校関係で栄養士や寄宿舎の生活指導員として働いていました。そこで感じた矛盾が活動の原動力だったといいます。

イメージ(切明澄枝さん(左)と加藤恵子さん(右)。どちらも、子どもたちがすこやかに育つ環境を日々考えています)
切明澄枝さん(左)と加藤恵子さん(右)。どちらも、子どもたちがすこやかに育つ環境を日々考えています

「栄養士といっても以前は寄宿舎の「寮母」枠内での栄養士任用です。寄宿舎指導員は24時間交代勤務で学校から帰ってきた子どもたちの生活指導をするのですが、つまり障がい児学校にはれっきとした栄養士がいなかったんです。普通学校には栄養士がいて調理人もたくさんいて、1食つくればいい。ところが、われわれは学校での栄養士も寄宿舎の泊まりも、そして3食やってくれという。昭和42年ころは障がい児学校は14校ありましたが、栄養士は道庁にたった一人の配置。障がい児学校には、どちらかというと病弱の児童・生徒が多数おりましたから、きちんとした栄養士が必要なのに、各校に配置されていない現状でした」。

「子どもたちのおかれた状況も、私たちの労働条件も、これって結局、人件費の問題ですよね。弱者のところにお金を使っていないということです。これはもう職場内で個人的に結論を出す状況ではないと思いました。障がい児学校にもきちんと栄養士を配置し、寄宿舎指導員の配置人数も確保することで改善されるわけです。「これは運動しなさい」ということだなと思いました。組合も栄養士会のみなさんも協力しあって道庁に陳情しました。この運動で獲得した成果は、現在も受け継がれています」と続けます。

「しかし寄宿舎の職員の場合では、もの言わぬ学校からもの言うほうへ移動させているだけと私には見えたんです。結局、国の基準内でおさめ、道としての予算はつけない。京都や大阪は国のほかに自治体として独自の予算をつけています。私たちの倍くらい職員がいました。北海道では、要求しない学校から要求する学校へ移動させるだけ。それに最近はまた臨時教員を採用して自由に動かしています。こうなるともう、人件費でなくて物件費です。このように社会に矛盾を感じたことから始まって、地域運動にも取り組むようになり、「おサイフの会」に出合ったのです」。


※2.情報公開条例と情報公開法
 行政機関などがもっている情報を誰もが知ることができるよう、知る権利を制度的に保障するもので、日本での情報公開制度の確立は、国よりも先に地方公共団体から進んだ。
 条例については1982年(昭和57)の山形県金山町と1983年の神奈川県と埼玉県が先駆けといわれる。
 日本の法律としての情報公開法は、1999年(平成11)5月14日公布、2001年4月1日施行。

立ち上げから参加している平野紀子さんは、その参加の理由を、なんといっても市の借金が2兆円を超えていたことだといいます。
 「私は婦人団体に参加しているので、さまざまな要求をもって市議会に出かけます。しかしいつもお金がないと切り捨てられます。じゃあ、ほんとにお金がないの?。2兆円の借金があっても、地下工事につぎ込むお金はある。これはいったいどういう構造なの?」と。そして「要求するときはやはり財政を知らないとダメだと思いました。そんなときに木椋とし子さんが札幌に戻ってこられたんです」。

そして山崎さんは、その返済利息も巨額で驚いたといいます。
 「以前はかの倒産銀行におり、退職前からいろんなことで情報公開を求めていたのですが、札幌市の借金の利息についても情報公開を求めてみました。私がフォーマットをつくり、一般会計だけでなく連結会計で借金の元利を利率別に出してほしいと要求しました。そのころ情報公開法(※2)はまだでしたが、そろそろ情報公開条例が各地にできていて、少しずつ緩くはなっていましたが、6カ月くらいかかってやっと情報が出てきました。それを見て驚いたんです。当時はもう低金利になっていましたが、7%から8%の高金利の借入が69.8%もあったんです。これは大変だと…。私もそんなときに木椋さんからお誘いを受けたんです」。

イメージ(全国的な「財政白書づくり」を広めた火付け役、大和田一紘さん)
全国的な「財政白書づくり」を広めた火付け役、大和田一紘さん

木椋とし子さんはご主人の仕事の関係で日野市に16年間移り住んでいましたが、両親の介護のため札幌に戻っていたのでした。
 「日野市は東京なのに、川があり農村・田園風景が広がる素晴らしいところでした。そこで自然に目覚め、大和田一紘先生に来ていただいて水や空気の環境調査をしていたんです。先生は環境が専門ですが、まちの基本条例づくりや住民の白書づくりも指導されていて、全国に住民や自治体による財政白書づくりのブームをまきおこした火付け役です。最初は国分寺だったと思いますが、私も日野市の最初の財政白書づくりに係わりました。そのあと戻ってきたんです。いままた札幌で排気ガスのなかの二酸化窒素NO2量を調べています」。

「大和田先生が白書づくりの火付け役なら、木椋さんは「おサイフの会」の火付け役です」と飯原さんはいいます。

イメージ(平易な文章で解説されている大和田さんの近著(左)増補版『習うより慣れろの市町村財政分析』 発行所/自治体研究社 価格/本体2,200円+税(右)『市民が財政白書を作ったら…』 発行所/自治体研究社 価格/本体1,905円+税)
平易な文章で解説されている大和田さんの近著
(左)増補版『習うより慣れろの市町村財政分析』
 発行所/自治体研究社
 価格/本体2,200円+税
(右)『市民が財政白書を作ったら…』
 発行所/自治体研究社
 価格/本体1,905円+税

こうして仲間が集まり、発足した「おサイフの会」は、1カ月半後の3月20日、「札幌駅~大通地下通路工事計画の凍結を求める陳情書」の提出を果たしました。このとき切明澄枝さんが会の代表として議会で趣旨説明に立ち、新川西地区の小学校建設運動を例にしてお金の使い方を提案しました。

しかし、「これまでの工事費がどれだけかかっているか、凍結したら違約金はいくらになるのか、その試算をしているのか」と逆に質問され、「私たちはいよいよ財政を勉強しなきゃダメだということになったんです」と飯原さんは語ります。

政令指定都市ではじめての「財政白書」

イメージ(日野市で環境調査活動をしていた木椋とし子さんは、札幌に戻ってからも市内各区300カ所以上で大気中の二酸化窒素の濃度を測定しています。その結果は、「あおぞら通信さっぽろ」で公表しています。◆あおぞら通信さっぽろ TEL:011-763-7387)
日野市で環境調査活動をしていた木椋とし子さんは、札幌に戻ってからも市内各区300カ所以上で大気中の二酸化窒素の濃度を測定しています。その結果は、「あおぞら通信さっぽろ」で公表しています。
◆あおぞら通信さっぽろ
 TEL:011-763-7387

木椋さんが日野市で白書づくりに参加したのは次のような経緯でした。
 「私が行ったころの日野市は革新市政で、福祉がとても充実したまちでもありました。ところが、日野市は福祉にお金を使いすぎて借金だらけ、革新だから国からお金がこないんだと宣伝されて、市民は信じてしまった。補助金もらって借金をなくしたいと保守に代わってしまったんです。
 あのころはどこのまちも借金があり、日野市がワーストワンではなかったのですが、要求しに行っても、財政が分からないからグラフでだまされて引き下がるだけ。そうしているうちに、アレルギーの子にも対応していた学校給食が民営化されたり、図書館の司書の数がだんだん削られていったり。介護保険制度ができて、いままで必要な人に与えられていたサービスがどんどん切られたんです。はい1時間です、余計な対話はしないでくださいと。お年寄りの食事も民営化され、インスタントや冷凍ものが入るようになりました。認知症であってもおいしくないものは分かります。革新から保守にかわるということは、目に見えてばっさり切られることだと身をもって体験したんです。それで大和田先生に…」。

その大和田一紘さん(NPO法人 多摩住民自治研究所副理事長)は、財政白書づくりが全国的に広まった背景をこう語ります。
 「地球温暖化が世界で問題になりはじめたころは、さかんにその分野の研究や教育活動をしていました。私が財政学習をはじめたのは、1984年(昭和59)に昭島市の教育委員会から市の財政について講座を頼まれたのがきっかけです。どんな研究所がどんなりっぱな分析をしても、まちはなかなか変わらない。どうしたら住民の自治力が育つか。しかしそのころはどこをさがしても住民が地方財政を学習できるプログラムがありませんでした。模索していると、国や地方自治体には決算カードなるものがあると知り、独学でその学習法をつくりあげました。そのうちバブルが崩壊し、地方自治体がどんどん疲弊。自分たちのまちは大丈夫だろうかという不安が全国に広がったんですね。夕張が2007年(平成19)3月に実質的に破たんして以降は、「財政分析」や「白書づくり」の講座依頼が激増し、たいへんな忙しさです」。

大和田さんは、講座にはわがまちを知ろうという住民はもちろん、議員も自治体の職員も、党派・会派をこえて勉強しにきているといいます。行政自身も、にっちもさっちもいかなくなっていると。
 「私の講座では通常10時間から12時間の基礎カリキュラムを受けてもらい、このあと分析用紙にひたすら数字を入れてもらいます。まさに私の本のタイトルにある「習うより慣れろ」です。最初は手書きをおすすめします。もちろんパソコン入力はグラフ作成などあとあとまで便利ですが、最初の手書きによって不思議と身体に入るんです」。

「おサイフの会」では2006年8月23,24日の2日間にわたり、大和田さんを講師に勉強会を開きました。札幌市の決算カードから数字を拾い、大和田流分析用紙に記入し、実際に電卓をたたいて分析する財政講座を体験しました。
 そして24日午後からは夕張視察に出向いた大和田さんに同行し、夕張の決算カードをもとに現地学習をおこない、財政状況を把握することができたといいます。


※3.政令指定都市
政令で指定される人口50万人以上の市。実際には100万人以上が指定されている。大都市の特殊性に応じて一般の市町村とは異なった行財政上の特例が設けられている。
○2009年4月時点で18の政令指定都市がある。

「先生は、札幌は入るお金も大きいけど出ていくお金も大きい。ほんとうに市民のために有効に使われているかどうか、だれかがチェック機能を果たさないとダメだよと。財政白書をつくりなさいと。それでつくることにしたのです」と飯原さんはいいます。

大和田さんは、これまでに全国で37冊の財政白書が生まれたといいます。自治体自身が作成したケース、住民が作成したケースがあり、ほとんどが10万~20万人規模の自治体でした。
 「おサイフの会」が取り組んだのは、全国の政令指定都市(※3)で初めて、しかも人口190万というマンモス都市の白書です。

その大都市の「おサイフ」の中身を知るために、飯原さんたちは大和田さんから次のようなアドバイスを受けました。
 「今回は自分たちの主張は別な形でするとして、まず市民のみなさんにこの190万都市の財政がこれまでどういう傾向で使われてきたかを示すことが大事。20年のスパンで経年的な分析ができればいいね」と。


※4.総務省方式の決算カード
 国が地方を掌握するために毎年実施する地方財政状況調査(決算統計ともいう)の集計結果に基づき、各都道府県・市町村ごとの普通会計歳入・歳出決算額、各種財政指標などの状況について、総務省がその団体ごとに1枚のカードに取りまとめたもの。日本のすぐれた官僚がつくったもので明治36年から蓄積されていたが、情報公開法により平成13年分から公開されるようになった。

大和田さんは、住民による財政白書づくりは、行政や研究者とちがった思い入れやつくり方があって、大きく分けて2種類あるといいます。
 ひとつは分野関心型。福祉とか環境など日ごろの活動に財政の視点を加えることで、より確証を得た主張を展開したいとつくるもので、その主義・主張が色濃く反映されているもの。
 もうひとつは分析資料型。個々の主張を抑え、「決算カード」をベースに全般的なデータを経年的に拾うことで、さまざまな傾向が客観的に見え、自分たちのまちのありのままの姿を知ることができるといいます。経年的なデータは、集めれば集めるほどその利用価値が相乗的にあがります。
 「おサイフの会」の場合は後者の分析資料型になります。

イメージ(村上和子さん(左)と藤井和子さん(右)。最近は札幌市の財政についての説明会やパソコン教室など、外に向けた活動にも出かけます)
村上和子さん(左)と藤井和子さん(右)。最近は札幌市の財政についての説明会やパソコン教室など、外に向けた活動にも出かけます

「決算カード」は2種類あります。ひとつは総務省方式の決算カード(※4)。情報公開法により、いまは総務省や自治体のホームページから簡単に入手できます。もうひとつは自治体独自の決算カード。都道府県や市町村によって住民要求による独自の項目が入っている自治体もあります。
 これらを利用して、第1段階は、財政用語を理解しながら大和田さんの考案した分析表に記入する。第2段階は、分析表をもとにグラフや図表を作成する。第3段階は、作成した表やグラフと自治体から出る予算書などを照らし合わせて、数字から具体的な政策を検証する。この第3段階がもっとも大事で、これをおこなわなければ財政白書をつくる意味はありません。

情報公開法が整ってからは決算カードなどのほか国や自治体のさまざまな情報が公開されるようになりましたが、この情報公開法について山崎さんにはこんな体験があるといいます。


※5.住民自治基本条例
 住民自治に基づく自治体運営の基本原則を定めた条例で、「自治体の憲法」ともいわれる。地域課題への対応やまちづくりについて誰がどんな役割を担い、どのような方法で決めるかをルール化し文章化したもの。
 2001年(平成13)4月1日施行の「ニセコ町まちづくり基本条例」が全国初といわれる。

「私が10年くらい前にさかんに情報公開を求めていたころは、なかなか情報がもらえず、出ても「何に使うんだ、何に使うんだ」とまるで被告席で問い詰められるようでした。それが、2006年(平成18)に情報公開条例ができてガラッと変わった。少し前まで、札幌市は政令指定都市のなかで情報公開度がナンバーワンだったんですよ。いまはナンバーツーですが。あれは上田市長を褒めてもいい。
 その平成18年の情報公開条例の第一章第一条は「国民の知る権利」という憲法を頭にもってきた。僕はほんとに驚いた。これはすごいことなんです。憲法だから議会も行政も変わらざるを得ない。それまでも1947年(昭和22)の地方自治法成立いらい住民に公表しなければならないという233条はあったけども、効力がなかった。それが、当時ニセコ町長の逢坂誠二さんが先頭になって情報共有に力を入れたり全国初となった「まちづくり基本条例」を制定してから、全国で次々と情報公開条例や住民自治基本条例(※5)が整ったんです。ちなみに国の情報公開法はそのあとです」。

大和田さんも、財政白書づくりが全国的に広まった背景には、この情報公開条例と住民自治基本条例の制定が進んだことが大きかったといいます。

財政用語はチンプンカンプン
   数字は百万、千万、一億、十億…

いよいよ『白書』づくりが始まりました。もっとも重要なのは「決算カード」で、「財政統計書」、「財政状況調査表」がクロス表として分析のカギをにぎったといいます。その他の気になる資料があると、とことん札幌市役所に通いました。市の職員も親切に対応してくれたといいます。

エルプラザ1階の情報センターもおおいに活用しました。貸し出しはしませんが、そこにないときは、頼むと官庁関係の資料ならすぐに取り寄せてくれたといいます。また、エルプラサで借りた専用のブースはとても助かりました。これがなければ、膨大な資料を毎回持ち込み持ち帰りしなければならず、さぞ大変だっただろうと思います。

イメージ(ゴミ問題にくわしい松岡英一さん(上)と、松岡さんが編集している「おサイフ」の会の会報(下))
ゴミ問題にくわしい松岡英一さん(上)と、松岡さんが編集している「おサイフ」の会の会報(下)

「最初は1カ月に1回の集まりだったのが、2回だ3回だとなって、毎週木曜日を定例会にして2年になります。白書づくりが大詰めのころは毎日通い、資料を山積みにして取り組みました。見ようと思えば資料はかなり出ているんです。ただ、わかりやすく市民向けになってないの」と飯原さん。
 「なにせ小遣い帳さえつけたことありませんから、まず数字を読むのが大変。どんぶり勘定の人がどうしてできるの?と親兄妹にも笑われました。何億、何十億という数字が千の位から書かれているから、いちいちそこから万、十万、百万、千万、ええと次は億、十億、百億…と数えていかないと読めないんです」と続けます。

「これまでの市町村は10ケタの電卓でよかったのに、札幌市の場合は12ケタが必要でした」と大和田さん。木椋さんも「日野市のときは十万、百万、千万単位だったのに、札幌は十億、百億が普通でしょう。もうびっくり」。
 「私は夫の会社で1年にいちど決算経理をしますが、大きなお金にさわったことはありません。10万円以上の単位を読めない数字音痴の主婦です。ただ、大きなお金をトンボの目のようにして見るのは好きです」と平野さんも冗談を言って笑います。

しかし、もっと大変なのは、財政用語。先に「おサイフの会」に入っていた妻からラブコールがかかり、それで参加したという加藤勉さんは、
 「39年の教員生活を終え、4年前に退職しました。組合活動もやっていましたが、財政のことはまったく…。で、勉強しているうちに、財政用語というものは、わからないようにわからないようにできている、ということがわかったのです。お役所言葉ですね」とその苦労を語ります。

完成した『白書』を見れば、2年間その作業にかけたみなさんのエネルギーが膨大なことがわかります。
 1985年度(昭和60年度)から2006年度(平成18年度)まで22年分の数値を分析用紙に記入するのに3カ月。8カ月かかってグラフ化と数値のチェック。170ページにおよぶ『白書』のグラフ作成はすべて平野さんが一手に引き受けました。それらの基本データをもとに、こんどはそれぞれの人がグラフ分析と解説書きを分担し、それを会員内で説明・検討。そして修正したものをまた中間検討会で話し合い、印刷見積り、プレス発表の日程決め。中間検討会の時点になってようやく「これで白書はできる」と確信がもてたといいます。
 この間、人手不足の助っ人として村上さんと藤井さんが入会し、みんなが執筆した原稿のパソコン入力を手伝いました。

飯原さんは「私たちの財政白書づくりを支えたのは、活動の拠点となったエルプラザ、12人のメンバー、札幌市の高い情報公開、市職員の親切な対応、大和田先生の指導です。何一つ欠けても白書は完成できなかった」とふり返ります。

こうして北海道で初めて、全国の政令指定都市で初めての財政白書『市民がつくった札幌市の財政白書』が完成しました。大和田さんは、正確さといい分析力といいトップ水準だといいます。初版の1,000部は1年でまたたく間に普及し、昨年4月には500部を増版しました。

[2]自治体財政の仕組み

さっぽろの「おサイフ」は3つある

イメージ(※a.作成対象の範囲)
※a.作成対象の範囲

「おサイフの会」が調べてみると、札幌市の「おサイフ」は「一般会計」「特別会計」「企業会計」の3つある(3会計体制)ことがわかりました。札幌市のホームページからその定義と区分を見てみると(※a)、
 「一般会計
  =福祉や教育、道路整備など、行政の基本的な事業会計。
 「特別会計
  =国民健康保険料や介護保険のように対象者が限られるなど一般会計と区別する必要がある事業の会計。
 「企業会計
  =地下鉄や水道など、民間企業のように利用料金などの収益で運営している会計。

札幌市は毎年入ってくる歳入(収入)をこの3つの「おサイフ」に分けて予算化し、政策をおこなっていくわけです。そして自治体の財政というときは、主にこの「一般会計」について論議されるのです。
 『市民がつくった財政白書』は、この「一般会計」について、1985年度(昭和60年)から2006年度(平成18年度)までの22年分の使われ方を調べあげたものでした。


※6.地方公共団体財政健全化法
 地方公共団体の財政の健全化のために、健全性を計るための比率を公表し、健全化の計画を策定する法律。実質収支比率が一定を超えると財政再建団体とされ、厳しい削減策を求められる。
 1955年の地方財政再建促進特別措置法に代わるもので、これ以降は4つの指標が一定基準を超える場合に、財政健全化団体および財政再生団体に指定される。
2009年4月1日施行予定。

このように自治体の財政には複数の会計があることを知って、昨年4月に入会したばかりの松岡英一さんは"目から鱗"だったといいます。
 「阿寒町雄別炭砿で働いていました。15年働いたところで1970年(昭和45年)に炭砿が閉山。安保闘争や1997年(平成9年)の三池炭鉱の争議に頭をたたかれ、労働組合運動や青年運動に携わりました。閉山後は全道労協の仕事など転職続きでした。釧路市の議会新聞づくりをしていたとき、市長がお金をごまかしているのではと疑問をもちました。市長を追究するために奔走していましたが、わかったようなわかんないようなお金の流れになっている。当時はまだ連結決算という考えはなく、悔しいけれど答弁されるたびにごまかされているようで、金の流れがほんとにわかるようなものはないかといつも思っていました。札幌へ帰ってきて「おサイフの会」に入ってからは、目から鱗が落ちたようでした」。

それに「夕張破たん」以降は、自治体の「隠れ借金」が大きく問題になりました。自治体の借金は「一般会計」については見えやすいのですが、先ほどの「特別会計」「企業会計」ほか「地方公社・第三セクター・外郭団体」「一部事務組合」の借金はなかなか把握できません。
 そこで国では2008年(平成20年)12月28日に「地方公共団体財政健全化法」(※6)を制定し、自治体は平成20年度分からはすべての会計を網羅した連結決算で提出することを義務づけられました。

財政の複雑さはここからが本番

こうして会計区分の違いを頭に入れてから、次の段階に進みます。

家計が収入と支出で成り立つのと同様、国や自治体も歳入(収入)と歳出(支出)で成り立っています。
 札幌市の歳入(収入)は13種類あり、主に次のようなものです。

(1)『地方税』
  …札幌市の主要な財源で、「市民税」と「固定資産税」が大きな割合を占めています。このほか都市計画税、市たばこ税など。
(2)『地方譲与税』
  …国税として徴収した分から特定の割合で、人口、道路面積などで地方自治体に譲与される税。「所得譲与税」、「自動車重量譲与税」、「地方道路譲与税」など。
(3)『交付金』
  …種類が多く複雑で、私たちがよく耳にするものとして「地方交付税」がこのなかに入ります。地方自治体間の行政サービスの不均衡を是正するため、国税5税(所得税、酒税、法人税、消費税、たばこ税)の一部が、一定の試算に基づき交付されるものです。
     
(6)『国庫支出金』
 1)「国庫負担金」=国と地方自治体が共同責任をもつ事業に対して義務的に国が負担するお金。代表的な例として、民生費国庫負担金(生活保護費や児童手当など)
 2)「国庫補助金」=国が地方自治体に特定の事業を奨励するための補助金。
 3)「国庫委託金」=本来の国の事務を地方自治体に委託する場合に交付(国勢調査や国政選挙事務など)
     
(13)地方債(市債)…長期にわたって借り入れる資金

次に歳出(支出)はというと、歳入(収入)とむすびついた形で構成されていて、項目も多く、分類するのはこれまた複雑です。「おサイフの会」では『白書』のなかで学校建設を例に説明しています。

たとえば、市が学校を建てるお金は教育費の普通建設事業費ですが、どの収入を充てるかをみると、国の補助金・市債(借金)・一般財源(市の収入+普通交付税)などさまざまなところから充てられています。この教育費を目的別歳出といいます。これは市の局・部などの単位の予算ともいえます。

一方、国への報告様式は、教育費は人件費や扶助費や物品費など、経済性質別に構成されています。この支出を性質別歳出といいます。
 つまり目的別歳出は市の局・部別の予算であり、国の省庁から連なる縦割りと考えると、性質別歳出は目的別歳出を横断した共通目的の支出です。

イメージ(※b.目的別歳出 科目別比率)
※b.目的別歳出 科目別比率

この目的別歳出を、国への報告様式の単位で経年的に調べ、グラフにすると、なるほど、札幌市がどのような行政サービスに力を入れてきたかが、国の政策の変化とともに見えてきます(※b)。
 「おサイフの会」ではこうした複雑で膨大な項目の支出について、ひとつひとつ、22年分、数字をひろい、表にし、グラフ化し、分析したのです。

イメージ(北海学園大学教授小田(こだ)清さん「北海道地域・自治体問題研究所」の理事長を務めます)
北海学園大学教授
小田(こだ)清さん
「北海道地域・自治体問題研究所」の理事長を務めます

さきごろ「北海道地域・自治体問題研究所」(2009年10月設立)を立ち上げた北海学園大学教授の小田清(こだ きよし)さんは、なによりもまず「おサイフの会」のみなさんに敬意を表したいといいます。
 「数字も項目も多いのに、じつに正確・克明に調べてあり、驚きです。ふつうの市民でも、やる気になればできるんだということを世の中に示してくれました。
 住民が財政という視点をもつことはたいへん大きな意味があります。それはいろいろな意味で、世の中を先取りしたといってもいい。これまでも札幌にはさまざまな市民団体があってそれぞれ素晴らしい活動をしていますが、いままで財政という視点をもったことはあまりなかったと思います。この白書は単にデータとしてすぐれているだけでなく、今後こうした人たちが活用する基礎資料にもなるのです。自分たちの要求や陳情に財政の視点が加われば、より説得力がありますし、行政も単純に予算がないでは済まなくなります。そうして市民の目が光っていることを知ると、行政もだんだん自分たちの考えだけで予算配分ができなくなるでしょうし、情報も積極的に公開しなくてはならないでしょう。世の中を大きく変えていくことになると思います」と小田さんは評価します。

大和田さんもまた、その著書『増補版/習うより慣れろの市町村財政分析』のなかで、自治体の財政運営にも「三権分立」が必要だと説いています。行政権のある首長には予算編成権があり、立法権としての議会には予算議決権があり、この2つは制度的に確立している。課題は「司法権」で、ここを担うのが市民の運動や参加。市民が首長や議会の言動を監視、提案していくことが重要で、市民による財政白書づくりはその役割を大きく担うものだとしています。
 そして「「おサイフの会」の白書は政令指定都市で初のものです。今後、他の政令指定都市の白書づくりの進展に大きな影響を及ぼすでしょう」と語っています。

[3]白書でわかってきたこと 見えてきたこと

さっぽろの「おサイフ」は大丈夫?

「住んでみたい都市」の全国アンケートで、札幌市は依然として高い人気を誇っています。しかし大和田さんは「発刊に寄せて」のなかで、「おサイフの会」は財政白書を通して札幌市がいま転機に立たされていることを指摘している、と述べています。

いまではすっかり札幌の財政分析に詳しくなった加藤勉さんは、現在の札幌市の財政規模は、「一般会計」「企業会計」「特別会計」の3会計で1兆5,500億円くらい。そして借金が約2兆円あるといいます。その原因はなんといっても、ハコモノをつくり続けていることだといいます。
 「これまで膨張する人口と右肩上がりの経済のなかで、道路、公園、オリンピックの整備、地下鉄などインフラ整備に力をいれてきました。最近では札幌ドーム、コンサートホールKitara、モエレ沼公園など、この20年間、毎年1,400億から2,000億の金額が投入されてきました。これは全国的な傾向ですが、北海道はとくに民間の産業が弱いから、他県よりもその土木費の比率が高い。それらはみんな国の補助金がらみで、がんじがらめなんです。
 いままた札幌駅・大通間の地下通路工事で、200億の予定がいつのまにやら252億に増えている。当別ダムは政権交替後の民主党の事業仕分けでようやくストップの声がでているけど、自治体も住民も業者も、いまのうちにもらえるものはもらおうと突っ走ってきたんです。いままでだれも止められなかった」と。

松岡さんは、施設整備などは建ててしまえば、多いときで7割、少なくても6割は国から補助金が出たといいます。
 「当別ダムには札幌市もこれまで66億4,000万円出しており、さらに63億6,000万円が支出されます。昨年は9億円、今年度は5億円を一般会計から繰り出します。将来の人口が196万人になると想定して2013年(平成25)から1日4万4,000m3の水をもらう予定でした。ダムの総費用は664億円で、費用対効果は2.0。小川の水を何年もかけて貯めないとならない、そんなダムです。八ッ場ダム同様、北海道で最大の無駄の見本ですよ」。

山崎さんはさらに、借金のもうひとつの問題は、国が政策として札幌市に20年にも30年にもわたって7%から8%の高金利で政府資金を貸し付けてきたからだといいます。
 「これも全国的なことで、他の自治体もみんなこの返済と利息に苦しんでいる。すごい借金ですよ。札幌は利息だけでも…ええと77ページの「一般会計」だけ見ても、平成9年に元金363億円を返して利息は20年間で352億円。合計700億円の半分が利息です。平成9年から18年までの合計は6,207億の元金に3,066億の利息、あわせて9,273億円。それがこれからもずっと続くんです。われわれの住民税の額に相当する。地方分権をかかげて国の方針にNOといい、どこかで止めなきゃだめだね。こんどは住民税の引き上げに跳ね返ってくる」。

「おサイフの会」では例の『平成22年度局予算要求の概要』の検討に、結局3度の定例会を費やしました。それについても、山崎さんはこう言って怒ります。
 「最初のページから来年は320億円の赤字です、だって。そして、みなさんご意見を、なんていうのは間違っている。いまは資本主義社会です。赤字を先に書く予算書なんてない。これは失礼というより無礼といいたい」。
 「そして、この「320億の赤字」のすぐ下に、生活保護費など扶助費の増加と、除雪費150億円をやり玉にあげている。これは赤字のほんとうの原因じゃない。これは決定的な間違いだ。公共事業費をここに載せないで、雪とリンクさせている」。

大都市・札幌の特殊事情

寒冷・多雪地に暮らす私たち札幌市民にとって、冬の除雪対策は大きな関心事です。『財政白書』によると、市への要望は30年間第一位といいます。

イメージ(毎週木曜日の定例会はいつも侃々諤々)
毎週木曜日の定例会はいつも侃々諤々

すっかり財政白書が頭に入っている加藤勉さんは、「去年は雪が少なかったから、除雪費150億なんて、こんなに使っていない。これはいちばん多いときの数字だ」といいます。
 「雪は毎年降るんだから、除雪費はこのまちの必要経費。きちんと予算を計上するのは常識。冒頭でやり玉に上げて150億と書くなら、降っても降らなくても150億の予算をつけておいほしいな。余ったら特別会計で基金にすればいいんだ。繰り越しにすれば、足りないとか言う必要はない。古くなった除雪機の更新や修理に回せばいい。いまは余ったら借金返済に回すとか使い込んじゃう」といいます。
 「それにこれは少々多くてもいい。中小企業に分担させてみんなの収入になっているわけだし、雪が降らなくても除雪業者に待機してもらっているんだから、一定額を保障しなくちゃ。雪は地球が終わるまで降り続けるんだ。そのときそのとき市長さんの思惑で除雪費を変えないでほしいな」。

山崎さんはこうもいいます。
 「しかも、人口の9割が中央区以外に住んでいるわけでしょう。市民のほとんどが他の区から中央区に通うわけだ。その他9区の冬季の日常生活を保障するには150億なんて安いもんだよ。なんで中央区ばっかりお金をかけるんだ。他区の整備が不十分で不公平だ」。

イメージ(※c.政令指定都市の普通交付税の比較)
※c.政令指定都市の普通交付税の比較

札幌市の「除雪費」は「土木費」に入るもので、「おサイフの会」ではこの除雪費の決算額、土木費に占める割合はもちろん、降雪量、車道除雪距離、歩道除雪距離、運搬排雪距離、パートナーシップ排雪距離、市民助成トラック台数など、さまざまな角度のデータを載せているのは驚きです。
 また、多数の項目で、他の政令指定都市と札幌を比較した表やグラフ(※c.d.e)も載せています。

一方、平野さん、木椋さん、村上さんは扶助費の文字を見てこういいます。
 「これだといかにも生活保護がふえてお金が足りなくなったみたいな感じ。失礼しちゃう」、「だから生活保護を受けている人は肩身が狭くなるんだよ。死にたくなっちゃうね」、「これを削りたいと言っているみたい」。

イメージ(※d.政令指定都市の一般会計歳入増額と人口)
※d.政令指定都市の一般会計歳入増額と人口

小田さんは近年の札幌市の変化を次のように語っています。
 「他の政令指定都市とくらべ、札幌はいろいろな意味で特別なまちです。長い歴史のなかで徐々に大きくなり、重要性をまして政令都市になったまちと違い、札幌は明治維新の当初から北海道の「中央」として発展してきました。人口は増え続け、いま北海道の3分の1が集中しています。人口比率以上になんでもそろっていて、まさにリトルトーキョー。都市にあこがれて地方からやってくる若者たちの仕事も十分にあり、Uターンで地元に帰る若者もいた。これまでは札幌が安定的に発展することで、他の市町村も豊かになれたのです。
 しかし、10年くらい前から中身が少し違ってきました。そろそろ増加が止まりそうですが、増えている人口の中身をみると仕事を求めてやってくる若者が大半で、しかし札幌にも仕事はないのです。地方の医療は壊滅的ですから、治療にくる老人医療者も多いのです。また、その人たちが帰るに帰れなくて、そのまま生活保護者にというケースも少なくありません。
 他のまちと同様に高齢化が進んでいますが、それにプラスアルファ、地方の人たちの生活保護費や老人医療費も賄わなければならない。これはもう健全な発展ではありません」。

イメージ(※e.平成17年度政令指定都市の目的別歳出額順位表)
※e.平成17年度政令指定都市の目的別歳出額順位表

扶助費は生活保護費のほか、老人福祉費、児童福祉費、災害救助費、衛生費なども含まれますが、「おサイフの会」の『財政白書』によると、たしかにその総額・歳出割合はともに年々増加しています。しかし一方で、ある表は、扶助費総額に対し生活保護費が他の保護費に比べてなぜか"伸び率"が減少していることも示しています。

市内には現在100人を超すホームレスもいると平野さんはいいます。
 「これから年末にかけて、また派遣村みたいなことが必要になるのに、札幌市で用意しているのはまったく少ない。いま臨時で受け入れている救護所4カ所・14人分は満室だから増やすというけど、たった5部屋。1泊ごとにチェックアウトして昼間は職業安定所だって」。

「それに、個人住民税の未納者の差し押さえをさせてはならない。デフレになるなかで生活が苦しいから住民税を払えなくなっているのに…。たまさか、それまでわずかな収入の中からおさめているとしたら、本来の住民のために使ってほしいのは当然じゃないですか。それを大型の借金の返済に使われている状況に疑問は出ないのかということです。それをこういう時期に差し押さえをして住めなくしている」と山崎さんはいいます。

介護問題に取り組んでいる和田照子さんは、でも…といいます。
 「そもそも住民税など税金は納税の義務があるんじゃないですか? 収入が少ない人や生活保護の人たちがちゃんとやっていける世の中になればいいわけで、それを雇用対策などに使ってもらえればいいわけでしょう」。

それを聞いていて平野さんは「2人の意見は少ししか違わないと思う。本来は和田さんの言うとおりなんだけど、山崎さんは、現実には住民税と同額のお金が借金返済に使われていて、一方で家屋・家財を差し押さえられる人が出てきているということでしょう」。

「そう、そこまでいっちゃってるのに、地下遊歩道に平気で200億も250億も使い、膨らんだ借金の利息に住民税と同額が使われているんだ」。

貧困層が増えていることについては、小田さんも警鐘を鳴らしています。
 「これまでの自民党のハコモノ政策で、地方はどこも膨大な借金を背負わされました。この裏で何が起きているかというと、年金が削減されたり相対的に増税となったり介護保険の問題が出てきて、住民がそのツケを払わされています。また、小泉内閣の構造改革はこれまでにない格差社会をつくりだしました。もはや命の危険さえ起きています。
 たしかに地下遊歩道は北方圏の冬を快適にしますし、芸術・文化も大切ではありますが、どこまで住民の声を聞いているかは疑問です。ダムだって、すぐに洪水が来るかというと確率は低い。どんな時代であっても最も重要なのは国民・住民の生活です。まして近年の状況下では生きる最低限の生活を確保することが最優先です。
 民主党も政権交替で気合いが入りすぎて、4年間のマニフェストをあれもこれもと気負っていますが、もう少し気長に見て優先順位のほうのメリハリをつけたほうがいいと思うのですが」。

「やっぱり税金の使い道が問題ですよね。どうして地下歩行空間の工事をストップしないのかしら。地権者がからんでいるから進めなきゃならないというんです。私あれ、とってもおかしいと思うのね。地権者のために土地開発するものじゃないですよね。そういうのをかき集めると、変えられそうなことがずいぶんたくさんあるなあと思う」と和田さんはいいます。

村上さんは「市民はいま、もっと先にやってほしいことがあるんじゃないかと思うんです。それがなんなのかを勉強したり検討しているうちに、いろいろと出てくるんです」といいます。

子どもたちの状況については加藤勉さんが疑問を呈します。
 「『局予算要求の概要』10ページの「保育所の入所定員の拡充」のところだけど、平成22年度は820名の保育所定員を増やすと書いてある。半分は解消されるということだね。でも、隠れ待機児童がもっといるんじゃないの。それに保育所待機児童対策事業27億6,164万って、これ、何に使うの」。

飯原さんの知るところでは、札幌市の待機児童は585人と発表しているそうですが、実際には1,123人いるとのことです。
 「これは行政がちょっと援助すればすぐにできること。そういうことが置き去りにされて芸術だアートだというのはちょっと。一部のプロのためでなく、若い芸術家たちに光を当ててほしいという意見もあります」。

平野さんは、585人という数字は、第一次の申し込みで入れずに諦めたお母さんたちの数が入っていないといいます。
 「保育所定員を増やすといって幼稚園は一律減らすんだよ。変だよね。この不景気に、働きたくても働けないお母さんがたくさんいるのに」。

切明さんは保育所建設運動にかかわりました。
 「『局予算要求の概要』10ページに、新設の認可保育所の整備とかに使うと書いてある。結局はその27億うんぬんで区の目玉になるような大きな施設をつくるんですよ。でも、赤ちゃんをつれてそこまで行くのは大変。やっぱり小さくても職場の近くとか地域にたくさんできないと。結局はハコモノ行政ですね。私がかかわった風の子保育園は安いですよ。土地いれて8,000万円。60人収容。国はいま2割増しの収容を許可していて72人入れますが、あまり良いことではありません」。

「お母さんが働きやすい通勤圏に風の子保育園みたいな8,000万から1億規模の保育園を建てたら、820人じゃなくて2,485人くらい収容できるんじゃないの。小さい保育所つくるんだったら地元の業者さんも潤うしね。全員入れて親が働けるようになれば、税金も入るんだから、最優先でやるべき。少子化対策としても間違っている」と平野さんはいいます。

炭坑マンだったことからエネルギーとECOに関心のある松岡さんは、ゴミ問題に取り組んでいます。ゴミ有料化で市民が負担しているゴミ袋の料金を、間違ってもゴミ処理施設の借金に使わないでほしいといいます。
 「ゴミ収集にかかる費用,たとえば収集車を増やすとか人員を増やすことに使ってほしい。それに、ゴミ処理施設で働く人たちの労働条件がひどく悪い」と。

飯原さんは今回の『局予算要求の概要』が一般会計だけであって、「企業会計」と「特別会計」が入っていないといい、借金はそっちのほうが膨れ上がっていると指摘します。

山崎さんも「総務省はもう連結決算を重視しているのに、一般会計しか出していない。一般会計から繰り出している特別会計や企業会計の予算要求額を同時に提示すべきだ。地下鉄事業とかね。藻岩山観光ロープウェイ山頂施設改築工事についても今回は5億しか出ていないでしょう。総事業費はいったいいくらなの」といいます。

イメージ(人口190万の大都市となった札幌市は、ひと冬に6mを超す降雪量があります。一時はスパイクタイヤによる冬道の走行で粉塵問題が発生しましたが、1990年代はじめにスノータイヤに変更してからは、空も雪も、もとのきれいな色を取り戻しています。)
人口190万の大都市となった札幌市は、ひと冬に6mを超す降雪量があります。一時はスパイクタイヤによる冬道の走行で粉塵問題が発生しましたが、1990年代はじめにスノータイヤに変更してからは、空も雪も、もとのきれいな色を取り戻しています。

加藤勉さんは、市は景気回復対策として観光事業・観光産業の促進を打ち出しているが、ハコモノばかりつくるのは間違った観光だといい切ります。そして
 「歳入・歳出の項目が大ざっぱすぎてよくわからない。「その他」の金額もこれだけ大きいのに、中身がわからない。やっぱり、わからないようにわからないようにつくっているとしか思えない。局別で出さないで、総務省が言う決算カードのように土木費とか公債費とかの項目で出さなきゃ。
 それに電卓で計算してみたら、なんとここで目玉商品にしている項目を足してみたら7,835万円。それだと1,092億のうち説明しているのは1億弱。あとの1,091億の説明がない。本物のでかいところがわからない。
 地下歩行空間だって、年度ごとに、何年度にはいくらで何年かかるのか、今どこまできているのか、先も全体も見えてこない。当初予算200億が、いつのまにか252億になっていたでしょ。この説明は市議会でしているかもしれないが、市民には説明していない」と、わからないを連発します。

「一つの事業について複数の部局にまたがって支出されているのね。これクロス表なんです。すべてこういう調子。目玉商品の地下歩行空間工事ならドーンと252億かかりますとまず出さなきゃ。「おサイフの会」だからそれがわかるんで、一般の市民はここまでわからないでしょう」と山崎さんはいいます。

「だいたい、「4つの見直しの視点」ってなに?。「事業成果の見直し」「社会構造の変化に合わせた見直し」「行政が担う範囲の見直し」「住民自治基本条例の趣旨を踏まえ、地域と連携することによる見直し」って、何をいいたいのか。たしかに自治基本条例があるのは事実。市民が主人公だということもきちんとうたっている。しかし、中身がほんとうにそうなっているかといいたい。見直した結果が地下通路工事なら、いま住民がしてほしいこととはぜんぜん違う」。
 「それから法人税の減収も赤字になる見込みだという。冗談じゃない、これらは自主財源のたった10%です。実際の自主財源のおおかたはわれわれの個人住民税が34%です。これを載せてないのはどういうことだ」と山崎さんはいいます。

平野さんは予算編成の流れについても疑問をもちます。
 「いま320億の赤字で概要が出ているけど、1月にきちんとしたものが出るときに、精査して仕分けしてどこかを削って対応するということになるのかしら、そこがわからない。きっとならないんだよ」。

切明さんも「今回、市がこのパブコメを求める時期を見ると、予算案が出たあとですよね。案になってしまうと、ご意見は聞きましたがこういうふうになりました、私たちはこうやりますといつもそうなる。パブコメを聞いてからでないと予算化できない仕組みにならないかしら。それでないと私たちの意見が反映されない。順番が違うんじゃないですかと言いたいわ!」。

木椋さんは「私たちは自己主張のある「おサイフの会」として、もっと市民がわかるようなものをつくったらどうなのかしら。そして札幌市に対案を提示できるようになりたいね。「私たちが仕分け人にならなくちゃ」というタイトルでね」。…一同の笑いがはじけます。

[4]これからの取り組みは

札幌市財政への関心は高まりつつある

イメージ(大和田先生を囲んで)
大和田先生を囲んで

2008年2月5日、「おサイフの会」は『札幌市の財政白書』の発行を市政記者クラブで発表しました。この会見の様子は北海道新聞、朝日新聞をはじめ各社新聞で掲載され、マスコミの反応は「おサイフの会」の努力に好意的でした。

半面、身近な人たちの反応を飯原さんは次のように語ります。
 「町内会で白書を買ってくれたりしていますが、難しいといわれます。説明に行ったりもしていますが、全部説明するわけにもいかないので、かみ砕くと「命の問題は大切だよね」と。それには除雪の問題もそうだし、お店だって、中央ばかり立派になるより地元にいろいろ整備されたほうがいいでしょうと。アートも地下通路も悪くないけど、いまは優先順位が違うでしょうと」。

木椋さんは札幌にもどった時に受けた周囲の印象をこう語ります。
 「札幌に戻って周囲をみると、時給いくらという収入でひそやかに暮らしている人をたくさん見ました。あるいは、その仕事すらあるかないか。みんなほんとに節約していて、冬なんか暖房を消してスーパーで過ごしたり。北海道の冬はより厳しいな、すごく景気が悪いなと実感しました。
 それなのに、札幌の「おサイフ」がどうなっているかみんな知ってる?と聞くと、「ちゃんとやってくれているでしょう」という人がいます。「こんなこと札幌の財政課がやることなんだから、私たちがやることじゃない」「陳情を持っていけばいいんだよ」みたいな雰囲気がまだまだありました」。
 しかし一方で「市民がこんなことをやるなんて、すごいですね、友達にも知らせますと言ってくれる人もいて、この白書をもっとみんなに普及させ、財政に関心をもってもらいたい」と思ったそうです。

イメージ(みんなでゴミ処理施設を見学。分別ルールが守られず、せっかくの資源ゴミが焼却炉へ。その量の多いことにみんなびっくり。)
みんなでゴミ処理施設を見学。
分別ルールが守られず、せっかくの資源ゴミが焼却炉へ。その量の多いことにみんなびっくり。

加藤勉さんは「最近はバス路線の廃止、産婦人科の救急医療問題、ゴミの有料化などいろいろあって、市民の財政への関心が少し高まってきたと感じます。今回のようなパブコメは、平成18年度が2件、平成19年度は36件しか寄せられなかったのに、去年は204人のファックスがあったということです。これは大きな変化です」といいます。

あとから入会した村上さんと藤井さんは、こう語っています。
 「道の市民活動センターで昨年開催した『財政講座』で、大和田先生が旬の話題「八ッ場ダム」について話されたのよね。その時の資料をよりわかりやすく私が解析し、松岡さんがさらに映像を使ってまとめたんです。札幌市の財政からダムの問題まで、「おサイフの会」に入って私自身の視野がずいぶん広がりました。映像で視覚に訴えるなんて手法もね!」。
 「2008年に「おサイフの会」から派遣されて大阪での全国自治体学校へ参加しました。その際に、私たちのつくった『白書』をセールスしてきたんです。全国初の政令指定都市での発行ということで、たいへん注目され、50冊も売ってきたんですよ。私たちと同じように、全国各地での自治体財政についての関心の広がりを肌で感じました」と語ります。

平野さんは「私が所属する婦人団体は主婦が多いので、大きな数字を見るのが苦手です。先ごろ出された『平成22年度局予算要求の概要』についても、運動している人でさえ市が意見をもとめていることを知らない人が多いんです。それで、たとえば待機児童問題についてこの『予算の概要』の中でどう解決されているかチェックし、解決されていなければ意見を出していかなくちゃいけないと説明すると、みんな運動と財政をからめて考えらるようになってきました。「おサイフの会」の活動はそういう意味で、視野を広げる人を増やすことに貢献していると思います」。

今回のように札幌市からパブコメを求められたり、いま起きている「藻岩山魅力アップ構想」問題の意見を求められたり、「おサイフの会」が最近、札幌市の財政を考えているグループとして知られてきた面もたしかにあると飯原さんはいいます。


札幌市のホームページから
さっぽろの「おサイフ」
(クリックするとPDFファイルが開きます)

小田さんは「おサイフの会」に次のような期待をよせます。
 「小泉政権以降、社会はほんとうに悲惨になりました。しかし、自治体も研究者も住民も、嘆くばかりでそれぞれがばらばらでした。この苦境はもはや、いろんな分野が力を合わせなければ乗り越えられません。
 私がこのたび理事長を務めることになった「北海道地域・自治体問題研究所」には、「おサイフの会」もメンバーとして入ってくれました。
 研究所はまだ立ち上げたばかりで実質的な活動はこれからですが、この研究所は、日本国憲法の平和的生存権(平和のうちに人間らしく生きる権利)と、住民自治の精神を基本理念にしています。住民自治こそ国民主権の基底であり、ともに学びあい交流しながら地域づくりの担い手として育っていくことが民主主義運動そのものなのです。研究所はそのための場としての役割を果たしたいと考えています。ですから、ぜひともここに市民の目線で意見を提供していただきたい。
 もうひとつこの会に期待したいのは、今後は財政分析の先生となって周囲の財政への関心を広めてほしいということです。これから向かう地方分権にはいろいろと困難も伴いますが、真の地方分権には住民参加が最も重要なのです」。

大和田さんもそれに加えて、住民自治力を育てるには財政白書づくりがいちばんだといいます。
 「仲間が集まり、長期間ひとつの目標に向かって学習や作業をすることはしぜんに連帯感を生みます。決算カードをくださいと一生懸命にもらいに行けば、最初は何に使うのかわからずけげんな顔だった市の職員も、親切に出してくれるようになります。そこには市職員と市民のつながりが生まれます。実態調査に行けば、そこの住民や議員との接触もあるでしょう。財政を勉強することは、わがまちを知るというだけでなく、「住民によるまちづくり」を可能にする信頼とつながりが生まれることでもあるのです」。

だれもが住みたくなるまち

今後の予定を聞くと、代表の飯原さんは次のように話してくれました。
 「今後の活動についてはまだ決まった方向はありません。ただ、初版の発行から2年がたちましたから、その2年分のデータもきちんと分析して追加ておきたい。
 それに今回出したのは一般会計の白書です。総務省は今後、特別会計、企業会計もふくめた連結決算の財政のあり方を求めることになりました。札幌市はそれがどうなのかということです。これは出ている数字のほかに魑魅魍魎(ちみもうりょう)な部分があるんです。一般事務組合とか第三セクターとかがいっぱいからんでいて、私たちもこれからそういうのを分析したいと思っているものだから、ちょっと息の長い仕事になりそうなんです」。

飯原さんはまた、こうも続けます。
 「「おサイフの会」のメンバーは、それぞれがいろんな思いと社会的な問題意識をもって活動してきた人たちばかりですから、一人のひとの話にもよく耳を傾けますし、それに対する理解は早いんです。早いんですが、一人ひとり力を入れていることが違うというギャップもあります。でも、そういいながらも、こんなふうにみんなで一つひとつ積み上げていくのもいいかなと思っています。
 それに、一人ひとり力を入れていることが違うといいましたが、「おサイフの会」のメンバーには、ひとつの大きな共通点があります。みんな、命を大切にする社会を強く願っていることです。お年寄りにも、これから生まれてくる子どもたちにも、さっぽろ市民憲章に出てくるような「すこやかな暮らし」を保障し、だれもが住みたいと思うようなまちにしたい。それが私たち全員の思いです。趣味で財政分析をしているわけではありませんから、そこにつながるような方向に持っていきたい。それには、ぴりっと辛い団体になっていきたい」と。

ふと、取材中に木椋さんが話してくれた話が心のなかに思い浮かび、大きくふくらんできました。

イメージ(白書完成記者会見)
白書完成記者会見

「私たち夫婦が移り住んだころの日野市は、ほんとうに素晴らしいまちでした。汚職もないし不正もない。福祉を重視していて、市民の声がどんどん実現する方向に向かっていたんです。
 たとえば、学童保育にあぶれる子どもたちが出るたびに、署名を持っていくと、プレハブを建てでもすぐに対応してくれます。お年寄りへのヘルパーサービスもとても充実していて、今みたいに1時間だ30分だと切られることなく、病院から帰ってきたときなんかは大変ですから、3日つきましょう、1週間つきましょうと。お年寄りの365日の食事は、市民ボランティアの参加による日野市独自のシステムで、安全でおいしい家庭料理が格安に提供されていました。学校給食もそうです。アレルギーをもつ子ども一人ひとりにもちゃんと対応がとられていて…。ああ、こんなまちもあるんだなと…。幸福って、こういうことなんだなと…。
 私は日野市で、一人のひとも困ることがないようにという暮らしを体験したものですから、「政治」というのは「税金をどう使うか」ということだ、とつくづく思いました」。

『財政白書』のなかで「おサイフの会」のみなさんは、「さっぽろを青空の見えるまちにしたい」と語っていました。

  命を大切にする社会…。
     だれもが困ることなく すこやかに暮らせるまち…。

「青空の見えるまち」とは、きっとそんなまちにちがいありません。

『市民がつくった札幌市の財政白書』の完成からちょうど2年。「おサイフの会」のみなさんはことしも年明けとともに、住みよいまちづくりのためにそれぞれの活動を開始しました。もう一方で、これからもまた毎週木曜日に「おサイフの会」の定例会に集まり、札幌市財政の分析・検証を続けていきたいといいます。


月刊「社会教育」
2009年12月号
  発行 国土社
  定価700円(税込)
座談会記事のなかで大和田一紘さんが住民自治について語っています。また、加藤勉さんの寄稿も掲載されています。

そして、札幌市の「おサイフ」は、私たち市民の「おサイフ」でもあります。大和田一紘さんも、小田清さんも、地域への参加こそが民主主義の運動であり、自分たちのまちづくりを可能にすると語りました。
 ほんとうに住みよいまちづくりは、私たち一人ひとりがもっと地域に関心をもち、積極的に参加することからはじまるのです。


さっぽろの「おサイフ」を知る会
 TEL/FAX:011-726-0344

NPO法人 多摩住民自治研究所
 http://www.geocities.jp/tamajitiken/

北海道地域・自治体問題研究所
 http://dojichiken.blog42.fc2.com/

札幌エルプラザ(総合案内)
 〒060-0808 札幌市北区北8条西3丁目
 http://www.danjyo.sl-plaza.jp/information/index.html

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