ウェブマガジン カムイミンタラ

1986年11月号/第17号  [ずいそう]    

アンモナイト
小林 孝虎 (こばやし たかとら ・ 歌誌『北方短歌』主宰)

31年まえ、当時30歳代の若き?歌人たちが新しい短歌誌を生むための努力をかさねていた。

「“源流”というのは、どうだろう」、「いや“分水嶺”なんていいなあ」、「古いよ、ここらで大きく“北海道歌人”なんか標榜(ひょうぼう)してみてはどんなものか」。

そんな気ままな意見ばかりで、なかなかまとまりがつかなかった。そこで酒井広治先生のご意見を―ということになってそろって出かけたが、先生はためらうことなく『アンモナイト』はどうかといわれた。

その時はまだアンモナイトを識るものが居なかったので、その意見はかるく葬られてしまって、今の『北方短歌』が創刊されたのである。

そんなことがあって、この『アンモナイト』が、ながく私の脳裏を離れることなく漂いつづけてきたのである。アナゴードリイセラスの、あの美しい紋様。そして縫合線のこまやかなうごきを見せるハイポフィロセラスや、密巻きと側面の細肋が発達するデスモセラスの緩やかな曲線。これらが海中を独占していた時代は、1億数千年も前ということになるから、ジュラ紀から白亜紀にかけてということになる。

そのころの北海道の海は、このアンモナイトでいっぱいであったようだ。そのためか、良質のアンモナイトは北海道産に限られているので、北海道は、さしずめ世界の宝庫ということになる。

ここまでくると、私の『アンモナイト』に寄せる思いは、ますます募るばかりである。とおい所から、この『アンモナイト』をしづかに呼ぶ声がする。「よし今だ、今こそ酒井先生のお心に添う時が来たのだ」。

私は、迷わずにこの『アンモナイト』を歌集名にいただいた。そして特装本の限定54冊には、小粒ながらよく光る天塩中川産のものを、その表紙に塡めこんだ。

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