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1987年01月号/第18号  [ずいそう]    

思い出の小樽回り函館本線
植田 克己 (うえだ かつみ ・ ピアニスト)

1987年4月からの民営化を控えている国鉄として「最後」の時刻大改正が、この11月に行なわれました。その新しい時刻表を手にとってみて、いくつか気がつく点の1つに、函館本線のうち、札幌―小樽―長万部間から急行や特急が姿を消したということがあります。

今から20年ほど前までは「幹線」としての需要もあったのが、時刻改正を重ねるたびに、長距離列車、優等列車が消え、逆に、かつては主に石炭などの輸送に活躍していた室蘭本線を経由して、札幌―函館間を結ぶ列車が増加してきました。今では全国版の時刻表には、札幌―千歳線―室蘭本線――長万部―函館を結んで掲載されています。子どものころから、よく銭函、張碓、蘭島方面に海水浴に行ったり、学生時代の帰省、上京、またニセコに行ったりするのにこの区間の列車によく乗ったので、そのころの風景が少しずつ目に浮かんできます。

銭函を過ぎて石狩平野から海沿いの、それも山が迫って切り断った崖が続きます。小樽に近づいて、白い砂浜に戻るところがまた、ちょうど街並と高島方面の視界が開けるところでもあり、印象的です。余市を過ぎて海を背にすると、果樹園の間を抜け、小沢からは羊蹄山とニセコ連山に囲まれた倶知安へ滑るように入っていきます。

ひと息ついて、ホームで飲む水はとてもおいしく、いかにも山麓に湧き出る泉という感じですが、そのせいか、駅そばも他のそれとはひと味違う気がします。雄大な羊蹄山の景色から離れたあと、列車は白樺の目立つ大地を黙々と走りますが、私にとっていかにも北海道らしい車窓の眺めも、裏返せば集落の少ない地域での鉄道のあり方のむずかしさを示しているわけです。

小回りのきくモータリゼーションの発達に押されて、鉄道はますます不人気です。自然の厳しく、都会から離れた地域の人にとって、確実に、また定刻で他の地点と結ばれる線路の存在が与える安心感は、数字のやりくりだけでは収まりきらないのだ、と北海道でも最古の鉄道の推移と考えあわせたことでした。

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