ウェブマガジン カムイミンタラ

1984年05月号/第2号  [ずいそう]    

春を待つ
田治米 鏡二 (たじめ きょうじ ・ 北海道大学名誉教授)

本州で花の便りが聞かれ始める頃の北海道は、テニス人にとって最もイライラする季節である。どんな様子かとクラブのテニスコートを見にいくと、ネットポールの先が20センチほど顔をだしているだけだ。あるいは、との期待がはずれてガッカリする。毎年これの繰り返しである。

それだけに、4月下旬に屋外のテニスコートに立った時の嬉しさは大きい。半年ぶりに顔を会わせた仲間同士の挨拶交換も晴れがましい気分である。実は冬の間中も、ヤド借り式に屋内コートを求めて、トギレトギレにやっていたくせに、「スキーばかりやっていたので、テニスはさっぱり」「どうぞ、お手やわらかに」なんて言って、ゲーム前の予防線を張り合うが、それでもゲームに勝ちたい一心が見えて面白い。

屋内でやるとスマッシュの調子がよい。多分、余り高いロビングがこないのと、天井があるためにスマッシュのタイミングをとりやすいからであろう。風がないことや眩しくないことも幸いしているのかもしれない。私の弱点のひとつはスマッシュである。シーズン中はいつもこれに悩まされる。ところがインドアになって暫くすると、私のスマッシュもいくらか安定する。だから、春になり、戸外に出た時は「俺のスマッシュも昨シーズンより上達している」と錯覚する。当然ながら、この幻想は戸外に出たとたんに破られ、少しも上達していないことを思い知らされる。それでも気分だけは新しく今年こそは、の気になるからフシギである。

過ぎたことは悔やまず、今年こそは、今度こそはと性こりなく続けるのは、おめでたい限りだ。にもかかわらず、4月のコート開きの日には、おめでたさを求めて、多くのテニス仲間が集まる。その日がとても待遠しい。

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