ウェブマガジン カムイミンタラ

1987年09月号/第22号  [ずいそう]    

自然保護随想
桑原 義晴 (くわばら よしはる ・ 日本植物学会北海道支部会員)

ある人いわく「人間は自然界を構成している一員に過ぎず、自然保護などということはまことにおこがましいことで、人間はむしろ自然界から保護されている」と。

なるほど、人間と自然界とは相互的な関係にあるので、自然界から隔離すると、生命も即座に断絶されてしまう。これほど人間は自然界から恩恵(作用)を受けている。が、人間もまた、自らの生活の結果として自然界にさまざまな影響(逆作用)を及ぼしている。この作用を最小限に食い止め、自然を大切にすることが自然保護の真義ではなかろうか。

去る7月15日、「札幌野の花の会」の会員とともに石狩浜に出かけ、海岸の植物群落を観察した。かねて、石狩町では町民挙げてハマボウフウをはじめ海岸植物の保護に全力を尽くしているという報道をしていたが、その成果は見事に効を奏し、ハマボウフウの大群落が育成されていた。会員一同、ハマボウフウの自然景観の美しさにしばし見とれ、いつの間にか無我の境地に誘われていた。ここに、あらためて石狩町の皆様の熱意に敬意を表したい。

それにつけても、知床国有林の伐採間題はずいぶん世間をにぎわしたものである。若い女性が、何百年も生き延びた大木にしがみついて「木を切らないでください」と、頬を赤らめて叫んでいる純真な姿を見て、思わず涙が出た。森林を選伐した所としない所とでは、活性化のサイクルにどれほどの差異が現われるかは、200年も300年も長期にわたって継続調査しなければ分らないはずである。壮齢木伐採のため、天然更新の後継者として育ちつつある幼齢木も痛めつけたことは残念である。

知床の森林は、太古から人手を借りずに美観を維持して今日に及んでいる。学術的な研究の場としても、手付かずの森林を子子孫孫にいたるまで残しておきたい。

◎このずいそうを読んで心に感じたら、右のボタンをおしてください    ←前に戻る  ←トップへ戻る  上へ▲
リンクメッセージヘルプ

(C) 2005-2010 Rinyu Kanko All rights reserved.   http://kamuimintara.net