ウェブマガジン カムイミンタラ

1987年09月号/第22号  [ずいそう]    

幸せの素
中田 ゆう子 (なかた ゆうこ ・ イラストレーター)

熱湯をゆっくりそそぎながら、静かに時計回りで“幸せの素”を混ぜてください――スーパーの店頭に、もしも小袋入りのこんなものが並んでいたとしたら、アッという間に売リ切れになることでしょう。

以前、“幸せの木”とかブライダルベールとか名づけられた観葉植物が出たときも、売り上げは上々だったと耳にしたことがあります。ハッピーエンドで終わるらしいハーレクイン・ロマンの読者が意外に多いのもうなずけなくもありません。もちろん幸せを求める気持ちは、私とて変わりありません。が、何かとすり替え、一瞬にして手に入れる幸福感の寿命の短さを知りつつも、いつの時代も幸せ商売がいっぱい。

幸せについて書きはじめると、どうしても教訓的になってしまったり、個人の価値観の押し売りに流れてしまいそうで、話の糸口を見つけるのはとてもむずかしいものです。

あなたはいつも日当たりのいい場所で生きてきた人だ、と言われることがたびたびあります。たぶん、私の描くイラストに登場する子どもたちの姿が健康的で、一心に遊んでいるからなのでしょう。

私の生活モットーは、“遊びましょう”です。時間、お金、場所に左右されず、好奇心のアンテナがピッピッピッと信号を出したときが遊びの時間。発信音が無いときは、好奇心が眠っていたり、良くないことを考えているときで、当然描くイラストの子どもたちも不健康で、色彩も冴えません。産みの親として責任を感じるときもあれば、絵の中の子どもたちが私を叱りつけることもあります。

絵を描くことは私にとって心の健康バロメーターにもなります。幸せ気分で子どもたちを描くためには、私がいつも、当たり前の生活の中から“幸せの素”を見つけていなければなりません。こんなことの繰り返しが、幸せ感につながります。したがって、仕事と遊び、大人と子ども、男と女の境目がないイメージ遊びが多くなります。熱い心にゆっくりと時間をそそぎながら“幸せの素”をかき混ぜることに気づいたのも、つい最近のことなのです。

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