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1987年11月号/第23号  [ずいそう]    

ホテルの趣味
大塚 榮子 (おおつか えいこ ・ 北海道大学薬学部教授)

雪と付き合う趣味を持たないで北海道に住んで冬を楽しく過ごすことが困難なように、出かけることが多いのに旅行が好きでなければ年中ユーウツである。もし旅行を趣味と考えることができれば、少々余分なお金がかかっても腹をたてずにすむので、よい趣味ではないかと思う。

旅行を快適にするには、なんといってもよいホテルが必要である。旅のなかでもホテルを趣味にすれば、あまり時間をかけずに楽しむことができる。では、ホテルのなにを趣味とするかといえば、簡単な採点をする。覆面調査員ではないので美食をするわけではなく、単純なことばかりである。

まず、清潔であることはホテルの第1条件である。次は、やはりサービス業として、伝言が伝わるかどうかというようなサービスの程度が問題である。レストランでは紅茶を注文する。濃い紅茶と温めた牛乳をたっぷり持って来てくれるところはよいところである。英国のように葉の入った、たっぷりの紅茶のポットとお湯の入った入れ物を持って来るところはまだ少ない。コーヒーの味も一応点検する。朝はフレンチトーストを注文する。食事の時はサラダに入っているトマトの皮がむいてあるかどうかに注目する。

学生時代に札幌に住んでいたころ、はじめて九州を旅行して、宮崎に行ったことがある。宿の客あしらいに歴史を感じたものである。それから2、3年経って上高地を訪ねた。そこの宿の人も非常にこまかく宿泊人の行動をみていた。山に近いので、黙って山などに入らないように監視しているのかと勘ぐったりした。

ホテルもサービス業なので、多分完壁なサービスを目指しているにちがいない。人間ができることは無限である。大きな資金をかけずに、人間の知恵と努力で完壁なものに近づけたら素晴らしいと思う。

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