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1988年03月号/第25号  [ずいそう]    

バードテーブル
金田 寿夫 (かねた ひさお ・ 札幌市円山動物園長)

昭和61年の冬は、園内に設置したバードテーブルに鳥ばかりでなく、エゾリス、ドブネズミ、キタキツネまでが集まってきて、生態観察や写真撮影を楽しむことができた。

この年は春先の開花期に低温となり、木の実の結実が悪く、園内のドングリ、クルミ、ナナカマドもほとんど実らなかった。野生動物たちは山奥での採餌(さいじ)がままならず、里に降りて来て、人家近くで餌(えさ)探しせざるを得なくなったのである。最初に姿を見せたのはエゾリスで、10月初旬から4月の雪どけまで、最大6頭が園内で越冬していた。しかも、飢えのため日ごろの警戒心も薄れ、人の手から餌をとるほどであった。知床半島の羅臼の人家に親子熊が侵入し、冷蔵庫の扉を開くなどの常識外の行動をしたのも、同じ理由である。

この異常気象による餌不足は日本ばかりでなく、ソ連の極東地域も同様で、シロフクロウ、シロハヤブサ、ケワタガモなど珍しい北方系の鳥たちが南下して来て、各地の愛鳥家たちを喜ばした年であった。

バードテーブルの冬の常連はヒヨドリ、レンジャク、ヤマゲラ、アカゲラ、コゲラ、シジュウカラ、ヤマガラ、ヒガラ、シメなどで、豚の脂身、パン、ヒエ、アサノミ、ヒマワリなどを与えると、種類によって好みの餌をついばんでゆく。ヒヨドリの好物は柔らかく、砂糖のついたメロンパン、カラ類はヒマワリ、アサノミ、脂身、キツツキの仲間は脂身とパンがご馳走(ちそう)である。

野生動物の餌付けと巣箱の設置については賛否両論があり、いずれが正論かは判じかねるが、人類が自然を破壊し、彼らの生活環境を悪化した以上、冬季の給餌や営巣可能な樹木にかわる巣箱の設置は、人類のささやかな罪ほろぼしではなかろうか。全滅寸前のタンチョウのトウモロコシ給餌による復活や、ハクチョウの死亡例減少など、効果的な事例が多い。しかし、この半面、野生ニホンザルの餌付け群による畑荒しや奇形発生、異常に増殖したキタキツネが媒介するエキノコックス症など、自然界の食物連鎖を人為的に狂わせた結果の弊害も否定できない事実である。

今年の冬は、バードテーブルに集まる鳥はスズメばかり。愛鳥家たちは「今年の鳥の世界は異常だ」という。しかし、山野の餌が多くて人里に降りずにすむ「今年が正常」なのであって、バードテーブル不要こそが理想なのである。

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