ウェブマガジン カムイミンタラ

1984年07月号/第3号  [ずいそう]    

バード・ウォッチング近描
小川 巌 (おがわ いわお ・ 野生生物情報センター 代表委員)

ここ2、3年バード・ウォッチングの浸透ぶりには、目を見張らされるものがある。以前だと、今でいう根暗のイメージか、さもなければ相当ジジ臭い趣味とみられていたきらいがある。10年くらい前にバード・ウォッチングには欠かせない双眼鏡で鳥を見ていようものなら確実に「のぞき屋」と間違えられ、ひどい場合には警官に職務質問された経験さえある。

イギリス滞在中の経験を『新・西洋事情』にまとめて大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した深田裕介氏でさえ、彼の地で「若い男が何故に鳥を1日中見て楽しいのか全く理解できない」と書いて、せっかくのノンフィクションの底の浅さを露呈したのもちょうど10年前のこと。

ちなみにイギリスには大小様々な野鳥団体があって、最大規模を誇るPSPB(英国鳥類保護協会)の会員数は何と35万人というから、バード・ウォッチングの底辺の広さは、日本の釣人口に匹敵するのではないか。

それが最近ではどうだろう、バード・ウォッチングの会を開くたびに多い時は100人近い参加者を集めるまでになった。数年前だとせいぜい30人が集まれば大盛会と言われていたのに比べると隔世の感というもの。もうひとつの様変わりは女性、特に20、30代の若い人達の参加が目立つようになったことだ。もちろん、家族連れや若い2人連れ、熟年カップルも加わるから大層バラエティーに富んだ構成になる。

それでも人数からいえば、1回で1,000人単位が集まる歩くスキーとか、釣りやオリエンテーリングにくらべると、まだまだマイナーの域を出ないし、働き盛りの男が少ないのも気になる。今のように、何十人もが一緒に行動するのではなく、中年の男もまじえて親しい友人や近所の人達と連れだってさり気なくバード・ウォッチングを楽しむ時代が来てこそ、日本も本当の意味での成熟型社会になる時でないかと思っている。女性や子供の参加が急増しているところから、そんな時代が意外に早くやってくるかもしれないと予感しながら、いろいろな行事のお世話をするのも楽しい。

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