ウェブマガジン カムイミンタラ

1989年07月号/第33号  [ずいそう]    

お人好し
津田 周彌 (つだ ちかひろ ・ 元北海道大学農学部工芸作物学教授)

現役を退いてからこの2年余り、西南の沢の中腹にある我が家の2階の窓から、毎日のように札幌のほぼ北半分の街を見下ろして暮らしていると、すっかりお人好しになってしまったようである。

新聞・テレビ・週刊誌がリクルート事件に絡んで「巨悪」とまで悪し様に罵る政治家も腹立ちの対象とはならず、むしろ気の毒にさえ感じてしまうのだから始末が悪い。賄賂で得た金を外国の不動産に投資したり、スイスの銀行に預けたり、あるいは自らの一族を要職につけたりしたどこかの国の大統領のように、私利を計った人たちと同列に論じてはあまりにも気の毒だと思う。

日本のマスコミは政治家の悪は言い立てはしても、その業績を褒めることは、その人が生きているあいだは、まずしない。かえって、わずかでも汚点があればこれ見よがしにその人の全人格、全業績を否定してしまう論法をとる。それを書いている記者は、それほど立派な人格と見識を持っているのだろうかしらんと思う。

マスコミは正義の味方を装いながら、その衣の下では単に特ダネ競争に自らの功名心を満足させているに過ぎないのではないか。日本の知性を代表していると称する大新聞も、実質は芸能人のゴシップをあさるスポーツ新聞や週刊誌と変わるところはないのではないか。西表島のサンゴの落書のでっちあげ写真や記事もその視点でみれば納得がいくというものだろう。その始末のつけ方には、自らの姿勢に対する反省はみられず、まさに政治家がやるトカゲの尻尾切りでしかなかった(責任者である社長が辞職したといっても、社長は編集権とは独立した存在であるとすれば、彼は世間体を欺く、まさにシッポでしかないのではないか)。

このあいだ、テレビで評論家のひとりが、消費税に関して、新聞・テレビの論調とは別な政府寄りの論を述べたら「なぜマスコミ論調と別な論を吐くのか、という非難の投書が来た」と述べていた。マスコミというのはそれほどの影響力を持っているのだということ、今ではむしろ政権の座にある人びとよりはるかに生殺与奪の権力を持っているのだということを肝に銘じて、せめて書く対象に対して思いやりを忘れないでほしいと思う。

年金という、人の払った税金の恩恵の下で生かせてもらっているだけでない、わずかでも毎日消費税を払わせてもらっているのだと、竹下さんが聞いたら喜びそうなお人好しのことさえ思うこのごろである。

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