昨年9月、第26回江差追分全国大会で優勝を手にした久保田勝美さん(札幌市)は、ガッツポーズで舞台にかけあがり、男泣きの涙を流した。大会出場13回、うち入賞3回、遂に優勝を果たした。
「今年2月追分セミナーに参加し、本場の師匠の指導で追分の心を体得した」
彼は優勝をふりかえり、そう語った。
追分セミナーは毎年2月開催され、4年目になる。厳冬の2月、毎週3泊4日で4回、受講料1万円、追分習得のイベントとして企画された。
江差の2月は吹雪の真っ盛り、日本海特有の季節風『たば風』が吹き荒れている。北西の強風で、風が束のように海から吹きつけるから『たば風』と土地の漁師たちはいっている。江差の人びとはこの風と闘い、生きぬいてきた。追分はそういう江差の風土を織りこんで磨きぬかれてきた。冬の江差には、追分を生んだ世界がある。この時期こそ、追分の心を体得する絶好の機会ではないか。
追分セミナーはそんな発想で実現した。
果たして吹雪の江差に3泊もするセミナーに参加者があるだろうか。そんな私たちの危惧をよそに、100名を超えるファンが集まって来た。全国各地で民謡を究めた名手たちや研究者など、遠く九州からの参加者もあって、追分ファンの根強さを知らされる想いであった。
指導も徹底した。師匠が1人ひとりに唄い方を手ほどきし、生活に耐えぬいて生まれた追分の心を説き、最後は吹雪の舞う追分祖師の碑前で合唱した。
民謡のキャリアだけで、追分はうたえない。土地の民謡で名をなした人びとも追分を会得し切れず、四苦八苦した。最後の夜、お別れパーティーでうたう師匠たちの追分に感動し、涙を流した。名人たちの追分には唄のうまさをこえた何かがある。
「追分とは一体何なんだろう」
そういいながら人びとは追分の魅力にとりつかれていた。
「このセミナーは本当にいい。命があれば、来年また来ます」。
最後のあいさつに立った89歳氏の言葉が参加者の心を伝えていた。