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1990年07月号/第39号  [ずいそう]    

アイスキャンドルの町
伊藤 隆一 (いとう りゅういち ・ 北海道教育大学教授)

名寄の隣の町に、下川がある。この町の若い人たちからは「下川の隣に名寄市がある」と訂正されるかもしれないが。その若い人たちが『コロンブスの卵』とのアイデア集団を結成している。猛烈な集団で、町おこしアイデアを生かそうとの、町づくり特攻隊でもある。

その成果のひとつに、全道的はおろか、全国的にも有名になった活動の「アイスキャンドル」がある。寒い日に、バケツに水を入れて外に出す。半分くらいに水が凍ったらバケツから取り出すと、バケツ型の氷の器が出来上がる。その中にローソクを立てると、キラキラと自然の美しいアイスキャンドルが誕生する。

それだけのものだが、2月のもっとも寒い下川の町で町民も参加して3千個が町に並ぶ。しんしんとした冬の夜に、幻想的な風景が展開する。感動的な夜そのもので、圧巻だ。

それに負けてなるものかと“しばれまつり”の陸別町も2千個と追従する勢いで、頼もしい。冬には町の中に人影もなく、街灯だけがやけに明るかったひと昔前から比べると、夢のような活気ぶりである。これこそ“いきいき冬の暮らし”で、寒さも忘れての元気いっぱいに喝采だ。

2月にバケツやローソクが1年間でもっとも売れるとの珍現象ぶりに苦笑するが、「アイスキャンドル」との命名も彼らのアイデア。なぜ名前がなかったかというと、本場の北欧ではせいぜい子どもたちの冬の野外での遊びである。それが東洋の北の国で町民ぐるみで3千個と、開花ならぬ開氷と聞いたら、びっくり仰天するに違いないパワーとなっている。

私が「北欧にそんな遊びがある」と気軽に記事に書いた。それを読んだ『コロンブスの卵』の人たちが火をつけた。そんな大イベントになるとは思ってもいなかっただけに、紹介者としてはただただ感服のみ。

夏に下川の町を通ったら、冬の下川町とは違った印象であった。あの冬の興奮のフィーバーぶりがなかったからで、なんとも空しい町並だった。この町には、冬がよく似合う。アイスキャンドルがキラキラの、あの季節が待ち遠しい。―皆様がたも、極寒2月の下川へどうぞ。

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