ウェブマガジン カムイミンタラ

1990年09月号/第40号  [ずいそう]    

若者と定年退職者の脱出
魚谷 直孝 (うおや なおたか ・ (株)ナオエ石油代表取締役)

ノサップ岬は、今日も霧である。旅行ライダーは科学的である。わが社のスタンドから岬へ電話を入れて、島々が見えないとわかると、約20キロ先の岬に足を向けないで給油所からUターンである。

しかし、この地の住民は霧の中を通し、見えない北方領土を見る目つきが心なしか恋人といよいよ結婚できるかのような眼差しに変わってきた。

ゴルバチョフ大統領の訪日がなるかどうかのマスコミ報道に一喜一憂をさせられている根室市民の心の中に、長い暗いトンネルから抜け出す予感―。そんな確定的でない情報に浮きたつ気持ちを抑えながら息を潜めて待っている市民の一方で、若者たちはあまりにもあざやかに、この地を何の未練もないかのように出ていく。

今年、市内2つの高校3年生の就職アンケートを見ると、根室西高の卒業生が172人。そのうち、就職希望者が120人。一方、根室高校は222人。そのうち、就職希望者が123人という数字が出ている。問題点なのは、男子にしぼってみると、市内就職希望者は西高21人、根高10人前後しかいないということである。このデータを見て、仲間の中小企業経営者は身ぶるいをしている。

アンケートの中を読むと、行政、中小企業をばっさりと斬り捨ててあり、反論したい面も多くある。しかし、若者に反論するよりも、話し合いのテーブルに着いてもらうように経営者は躍起になっているのである。

北海道の各地で、その地の文化がしっかりと根をはってこそ、根の先の都市は安定するのではなかろうか。人口比率、経済効率的発想優先の地方行政をしていくならば、根が腐り、地方文化が育たない地となり、若者ばかりか、定年退職者までがふるさとを捨てていく傾向になりはしないだろうか。

市民は、敢然と町づくり運動に参戦をしているが、息切れと疲れが、少し見えてきた。

ゴルバチョフ大統領閣下、道民と貴国の市民が根室市で、国後島で、手を組み肩を寄せ、日本酒とウォッカを飲みながら生きる喜びの話し合いをしている姿を美しいと思いませんか。

◎このずいそうを読んで心に感じたら、右のボタンをおしてください    ←前に戻る  ←トップへ戻る  上へ▲
リンクメッセージヘルプ

(C) 2005-2010 Rinyu Kanko All rights reserved.   http://kamuimintara.net