リンドバーグ大佐が愛機スピリット・オブ・セントルイス号を駆って世界初の大西洋横断飛行に成功したのは、昭和2年のことである。世は飛行機熱に沸き立った。ちょうどその頃に生まれ育ったせいか、飛行機で海外に飛ぶのが子供の頃からの夢であった。
やっとその夢がかなったのは30代後半になってからのことであるが、以来、何度外国の土を踏んだことか。そのたびに眺望のきく窓際の席を占め、一睡もせず下界に目をこらす、地図を片手に、あの町はどこ、あの川は何川、あの島の名はと、その夫々にまつわる歴史や物語とからめて眺めるのは何とも楽しい。
夜もまたよい。北極ルートではオーロラの乱舞が、豪州ルートでは南十字星が見えたりするからである。
初めてシベリア上空を飛んだときは、その果てしない大地と、レナ、エニセイ、オビの大河に目を瞠(みは)り、太平洋横断では、限りない海の広さに感動するのであった。
でも、何回か飛んでいるうちに、それが急に小さく見えてきたのである。うねりが寄せる島の教を数えているうちに、たった10時間で米国西海岸に来てしまう。タイガと荒涼たるツンドラの色を眺めていると、9時間でモスクワである。スモッグが色濃い地平線を見て、大気がこれしかないことを知る。「たった一つの、かけがえのない惑星―地球」という言葉が、実感として迫ってくるのであった。
藻岩山や大雪山系の紅葉がいま、限りなく美しい。豊かな四季である。でも、この恵まれた日本の気候風土も、太平洋の、シベリアの、あの大気と海と大地につながっている。かけがえのない青い地球を荒してはならぬ。地球は小さく、狭いのだ。
やがて雪が大地を蔽(おお)う。カムイミンタラはいつまでも純白にしておきたい。