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1990年11月号/第41号  [ずいそう]    

香りの時代
山本 順子 (やまもとじゅんこ ・ 社団法人 札幌消費者協会会長)

この秋、当別町、月形町にまたがる道有林に“道民の森”が一部オープンした。1万1千ヘクタールの森には、学び、遊び、集う、また四季の鳥の声をきき森林の歴史を眼で見るといった多くの設計が盛り込まれていて、大いに期待が寄せられている。緑の環境に恵まれない都会の子どもたちが炊事遠足ができ、音楽舞踏を演ずる野外舞台も立派である。

自然をこわさず、自然の中に融け込む形の“森に親しむ”森づくりは、なかなかむずかしいことだと思う。森林の中に都会をつくる思想ではなく、むしろ自然と共生の原体験が貴重ではないか。

アメリカの西海岸を旅行したとき、サンフランシスコからバスで「コースト・レッド・ウッド」を訪れた印象がよみがえってくる。レッド・ウッド、アメリカ杉の森である。なんでも自然保護と取り組んだJ.Muirの名をとり、記念しての森という。壮大な森林であった。杉の香りは、日本の杉林とは異なるけれど、ひととき都会の喧噪を離れての散策が楽しかった。

サンフランシスコの中華街、ゴールデンブリッジ、夜のフェリーで見る街の夜景などからは、確かに「I left my heart in Sanfrancisco」の想いがいっぱいであった。でも、このレッド・ウッドの香りの森を訪れたことで、また別なアメリカの側面に触れた想いであった。

人々にとって緑の郷は欠かせない。ドラモン教徒の男性は、一生のあいだに4つの修行期を送る。いわく、学生期、家住期、林住期、遊行期である。青年期は学びの期、成人しては妻や家族を養う家住期を、やがて俗世の務めを終えると林に入りひたすら修行をつむ林住期を迎える。そして各地の寺院を訪れる遊行期に入る。

私もこれからは、つとめて森林を訪れ、林住期のまねごとでもよい、森の香気に心を安定させたいものと思う。

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