藁で作られた鳥の巣の中に、白からクリーム、赤から茶色までの、さまざまな色をした卵が重なりあっていた。『あ、かわいい』と取り上げると、木で作られた卵は、ぴたりと吸いついたように、掌のカーブに沿って、馴染んできた。
白いセン、赤いサクラ、堅い茶色のエンジュと、それぞれの木色が違って、どれもこれも捨てがたい。
道産木を素材に、木のおもちゃを作っている煙山泰子さんのアトリエだった。種類によって木の肌色と、木目が違うことを知ってもらいたくて、見本代わりに作ったという。不思議な木の卵はつるんと磨きをかけられ、先ぼそりの曲線が何ともいえず美しい。
手の中に包み込んで、そのほど良い大きさと、優しいラインを楽しんでいると、卵はほんのり熱を帯び、抱卵する親鳥のような、温かい気持ちが胸に満ちてきた。
決してフ化することのない卵なのに、こうして愛しみたくなるのは、あの卵の造形美にあるに違いない。
軽さと、温かい赤い色が気に入って、サクラの卵を手に入れた。机の上にころんと転がしてある木の卵を、折にふれて触っていると、ある日、きれいな花が咲くのではないかと思い始めた。神をも恐れぬアホな発想とわかってはいても、飽きずにサクラの卵を温め続けている。
山の中で出会ったエゾヤマザクラの忘れられない風情をあれこれ思い出しながら、この卵のサクラは、どんな種類なのかと、木肌を磨きながら思う。
きれいだ、みごとだと花をほめられて、花の命をまっとうした人里のサクラか、山を鳴らす風の音しか聞かずに、花びらを散らしたサクラなのか、小さな木くれに過去をさかのぼって思いをはせている。