ウェブマガジン カムイミンタラ

1991年01月号/第42号  [ずいそう]    

いまは何処にいるのか
国松 登 (くにまつのぽる ・ 画家 国画会会員)

3月の初めごろ、庭の残雪の上に大小の黒いかたまりがもつれ落ち、大きな方の影が飛び去って、小さな鳥が肩先から血を垂らしながら飛べなくなっているのが見えた。

私は急いでアトリエの戸を開けて庭に飛び出したが、雪に足が埋まって思うように走れないので、そばにあった莚を雪の上に敷いて腹這いになって傷ついた小鳥を把まえようとしたが、羽の肩先に傷ついた鳥はバタバタと這い回り、逃げようとする。

無理をすると、冬囲いの間に潜り込んでしまうかもしれないと私は少々慌てたが、素早く両掌で軽く押えた。肩先の羽が抜けて血が雪の上に点々と落ちている。

鴉か近所の飼鳩に襲われたらしいが、少し手を緩めると温厚しくなったので急いで家に入り、空いた鳥篭があったので、とりあえずその中に入れてホッとした。

しかし、一見してまさしくこれは野鳥である。このまま飼って置くわけにはいかないが、ともかく傷の治るものなら治してから帰してやろうと思った。

幸いなことに、わが家の廊下には1羽の九官鳥と十姉妹が8羽、小さな緑色のインコが1羽(これは亡くなった友人の形見の鳥で、かれこれ10年くらいになる)飼っていたので、それらの仲間に篭に並べて九官鳥の摺り餌とリンゴを入れて置いてみた。

野鳥に詳しい友人に色や形を言って訊いてみるとツグミではないかと言われ、早く元気にして帰してやろうと思っていた。2、3日したら他の篭の仲間もいたせいか毎日餌を食べるようになり、肩の傷も次第に治り、私の毎日のたのしみにもなった。

私はいつか野外に帰すことを忘れていたある日の夕方、篭の口が開いてツグミの姿が見えないので驚いた。妻は、そういえば少し前に帰り、玄関の戸を開けた時、パタパタと外に飛び出したものがあったということで、「ああ、それだ」ということになったが「まだ秋も深まらないころでよかったなァ」と、2人で胸をなでおろした。

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