私は北海道に生まれ育った。大学卒業後の4年間の海外と東京の生活を除いて、北海道に生活している。年間数10回もの道外への出張の機会があるが、千歳の空港に帰り着くと、空気のうまさにほっとさせられる。
朝7時半に車で家を出ると東京の都心での10時半の会合に間に合い、夕方7時半まで新橋界隈で人と歓談して、10時半には自宅で風呂に入っている。それにも拘らず、本州の人びとのあいさつ言葉は「遠い所から、よく来ましたね」「寒いでしょうね」というのが常識で、いつか「くまそ」などが話題になったが、雪が多く寒いところ、すなわち「文化果つる所」と考えられがちで、これが一般的な日本人の通念になっている。
世界の文化都市を歩く機会も多いが、東京のような熱帯都市などはほとんど無く、札幌のような、明瞭な「春夏秋冬」の季節のあるのが文化都市の条件である。私の住んでいた30年前、米国の学術文化の中心は東海岸(ボストン、ニューヨーク、ワシントン)であったが、そのころ雪の降る寒い冬の東海岸から常夏の西海岸(サンフランシスコ、ロスアンジェルス)へ、多くのノーベル賞級の学者が移り住む現象が起こったが、最近では再び東海岸へ戻ることが多くなったという。原因は、頭脳の活発な活動にとって、春夏秋冬の季節の変化が大切であることが認識されたから、と言われている。
交通機関の発達した現在、狭い国土の日本は、どこに住もうが差がなくなった。休暇の多くなる現今、レジャーを楽しむのもままならぬ東京など、若者にとっては「ださい場所」になるのは目に見えている。美しい自然、四季の移り変わり、広大な土地、レジャーへの魅力など、これほど居住性の高い、無限の可能性を秘めた国土は、日本の中には北海道しか存在しない。
表題は、今年生誕百年を迎えた日本の誇る物理学者、仁科芳雄博士の言葉である。この言葉を実現できるのは、まさに「カムイミンタラ」の地、北海道なのである。