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1991年05月号/第44号  [ずいそう]    

藻岩山の緑
俵 浩三 (たわらひろみ ・ 北海道自然保護協会常任理事)

私は東京で生まれ育ち、社会人になってからの大半を札幌で過ごしている。札幌には東京にない魅力がいくつかあるが、街の西側に山なみが迫って見えるのもその一つである。札幌の小学校の校歌には、北の方では手稲山が、南の方では藻岩山が、それぞれ歌いこまれているものが多いと聞いたことがある。私は札幌市内で何回か転居したが、藻岩山を眺められる場所が多い。

以前、山鼻に住んだときには、窓から見える藻岩中腹の緑が、毎日の天気と四季のうつり変わりを実感させてくれた。今は真駒内から藻岩の南斜面を朝夕に眺めている。日曜日の朝など、今日は天気がいいなと思うと、ぶらりと藻岩山に登山することがある。登山口まではバスに乗るが、帰りはそのまま家まで歩いて帰ってしまう。日常生活のなかにこうした山との関係を組みこむことは、東京では思いもよらない。

藻岩山の緑も、新緑、盛夏、紅葉とそれぞれに魅力的である。藻岩山の森林は、ハルニレ、カツラ、イタヤカエデ、シナノキ、ミズナラ、トドマツなど多様で、樹木の種類は低木まで入れると百種をこえる。これは札幌のように寒い地方の植物としては、かなりの数である。ロンドンの年平均気温は10度で、札幌の8度より暖かいが、イギリス全土の自生樹木の種類数は藻岩山の三分の一程度しかないのである。これは藻岩の自然の豊かさをたたえるべきか、イギリスの緑の貧しさをなげくべきか、迷うところである。

しかし、イギリスの人びとは自国の緑が貧しいからこそ、世界中から多くの植物を導入して、世界でもっとも園芸、庭園、公園を愛する国民性を育て、美しい緑の環境をつくった。それにくらべると日本人は、藻岩山に象徴されるような自然に恵まれているせいか、緑の環境を守り、育てることに、鈍感な人が多いような気がしてならない。

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