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1991年05月号/第44号  [ずいそう]    

森の暮らし
清水 晶子 (しみずあきこ ・ 植物画家)

子育てが終わったら水辺に近い森の中で暮らそうというのが、私ども夫婦の夢でした。そんな気持ちから北海道の各地を探していたのですが、2年前の春、網走川口に近いモヨロ貝塚の原住民の遺跡を見た折、ここだ! と思いました。雑木林の林床は花で埋ずまり、心地よい春の日差しが溢れていました。

昨年の夏、ついに28年間住み馴れた札幌から、網走湖に近い呼人(よびと)の雑木林の中に移り住みました。家ができるまで近くの離農跡に仮住まいしたのですが、軒にはスズメバチが巣をつくっていました。このごろ『スズメバチはなぜ刺すか』というおもしろい本を読んでスズメバチに親近感を持っていましたから、先住者に敬意を表わし、共存を覚悟しました。戸外にいるとよく警戒飛行されて、そのたび、からだを小さくしてやり過ごしましたが、窓を開けておくと次々家の中に入ってくるので困りました。10月になると、蜂たちはいつのまにか全員姿を消してしまいました。おっかなびっくり空の巣を取ってみると、内部には見事な4階建てアパートができあがり、外壁の美しいマーブル模様とともに、感動いたしました。

まもなく私たちの「森の家」ができあがり、早速、新ストーブを焚くと、家の中のどこからか次々と女王蜂が現われ、ブルルンブルルン元気に羽音をたてはじめました。これには驚き、そっとつかまえては外に出しましたが、彼女たち、どこかによい越冬場所を探したでしょうか―。スズメバチは人を襲うので恐れられていますが、気をつければ、むやみに刺すわけではなく、むしろ虫を食べ、森を守る益虫なのです。

暗闇と美しい星空も久しく忘れていたものでした。木の枝を拾って薪をつくり、小鳥の声を聴き、リスの姿に見とれ、福寿草の花の金色に胸をときめかせる毎日。まだなかなか仕事に手がつかないありさまですが、きっとそのうち、生きる術、仕事の術を森が教えてくれるでしょう。

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