冬山の雪の面には、枯れ葉がほど良い音をたてて飛んでいます。野ウサギなどの小動物の足跡があります。朽ちた樹皮が威厳を保ったまま落ちています。
このように、小動物や自然が画家になって雪の面に描いた絵は、北海道で見る独特の冬の自然画のひとつではないでしょうか。私は、自然が描いてくれた絵を見るのが好きなので、スキーやカンジキをはかなくとも自由に歩けるカタ雪になった日を選んで野山を歩きます。
石狩郡当別町と樺戸郡月形町に広がる、111434ヘクタールもある“道民の森”を歩いていた師走の日のことでした。
九州や四国方面でしか見たことのなかったシダ植物のノキシノブが、大きな樹に生えていたのです。
北国の冬山で、ノキシノブに出会ったのです。
ノキシノブは、古い木や岩などについて生える常緑のウラボシ科のシダで、一名ヤツメランとも呼ばれています。
葉の裏を見ますと、小さなまるい胞子袋が2列に並んでいて、ヤツメの顔の部分にも似ているのです。
葉の長さは10~12センチほどあり、樹の幹に集まって生えている姿は、緑のヤツメがたくさん寄って来て巣づくりでもしているようにも見えます。
万葉時代はノキシノブを「子太草(しだくさ)」と呼んでいて、「我が屋戸の軒の子太草生ふれども恋忘れ草見れどいまだ生ひず」と詠まれています。
万葉集には、およそ160種の植物が詠まれています。北海道には“道民の森”のノキシノブのように、私が思わぬ所で出会った万葉植物が120種にもなりました。日本の古典に詠まれた植物が、北海道にたくさんあることを、私は誇りに思っています。
北海道の自然はすばらしいと、よく言われます。そんな自然の中に万葉植物もあって、万葉の歌を伝えているのかもしれません。