数年前、アメリカ東部に1年間住む機会があった。ワシントンから車で5時間のところにあるチャペルヒルという人口4、5万の小さな大学町がアメリカでの生活拠点であった。この辺りはタバコの産地で、豊かな自然は北海道の景色に似ていて、到着した時は日本に帰ったような気持ちになった。
新居は大学から10分ぐらいの煉瓦造りのアパートで、樫の木にかこまれた林の中にあった。アパートに入って2、3日してから息子とアパートの周りの探索に出かけた。林では見たこともない草花、大陸的な大きなキノコを見つけた。子どもが摘んできた花はグランドキャニオンで買ってきた花瓶に差して、窓のところに置いた。家具の少ない殺風景なアパートに、潤いがでた。
花瓶を置いてまもなく、息子が窓の外を指しながら、ハミングバード来ていると、突拍子もない声を発した。バミングハードは蜂鳥とも呼ばれ、蜂ほどの大きさで、動きも敏捷である。そっと窓の外を見ると、花瓶に向いて飛んでいる美しい鳥がいた。アメリカ生活の第一歩にふさわしい出来事であった。
春休みには家族そろって、近くのアパラチア山脈にドライブに出かけた。延々と続く、ブナの新緑の林を通り抜けると、山一面のシャクナゲがみごとに咲いていた。山の麓ではピンクや白の花をつけたドックウッドがいたるところで見られた。この木は日本名でアメリカハナミズキといい、大型の花はヤマボウシに似ている。アメリカハナミズキは秋は紅葉、冬は赤い実を鑑賞できることから、アメリカでは人気の高い庭木になっている。ノースカロライナ州では、州の木に指定されている。
帰国後、札幌の園芸市でアメリカハナミズキの苗木を見つけて、わが家の庭に植えたが、まだ咲いたことはない。しかし、今年は小さな蕾を付けているので、アメリカで見たあのみごとな花を期待している。道庁の旧庁舎前に、アメリカから寄贈されたアメリカハナミズキが年によってはみごとな花をつける。花の季節には、道庁前に出かけるのを楽しみにしている。