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1992年05月号/第50号  [ずいそう]    

落葉広葉樹林帯
矢野 牧夫 (やのまきお ・ 北海道開拓記念館特別学芸員)

北海道や本州北端部にひろがる温帯北部の落葉広葉樹林は、東アジアでは中国北東部、沿海地方南部へと続き、ヨーロッパでは北緯50度を中心に中部ヨーロッパ地方に分布する。北米大陸になるとこの森林帯は少し南に寄って、北緯45度付近を東西に細長くのびる。

この森林ではブナ、ナラ類、クリ、トチノキ、クルミ、ハシバミ、ヤマブドウなどの多種類の木の実が生産され、さらに、林床部では山菜類が豊富である。それらを求めて集まる動物たちの種類も多く、シカやサケ・マスなどもこの森林帯に関連する生物といってもよい。地球上には赤道付近から高緯度地方にいたるまでいくつかの森林帯が存在するのだが、この温帯北部の広葉樹林帯ほど変化に富んだ山の幸・野の幸を与えてくれる森はほかにはない。したがって、このような森林がひろがる地方では人類の文化の歴史もふるい。

さて、こうした地域では年間の平均気温がおおむね摂氏5度くらいから10度前後というところであり、特徴的な四季の移り変わりがみられ、人類の居住環境としては最も恵まれた地域だといえる。

不思議なことにこれらの地方には、世界の政治、経済、学術、文化、芸術などの先進地が数多く存在している。そして、良質なワインをはじめ、ビールや各種の酒類の名産地も多く、チーズなどの発酵食品の生産も盛んである。醸造や発酵産業にも最適の地域なのだろう。

道産ワインが評価されるのも、飯ずしやニシン漬けが独得な味を誇り得るのも、その背景は温帯北部の落葉広葉樹林帯の風土にあるといえる。大きな視点から、ふるさと「北海道」を再吟味してみるならば夢は無限にひろがるはずである。かつて、コマーシャルで使われた「ミュンヘン・サッポロ・ミルウォーキー」のキャッチフレーズは、いずれもこの森林帯に存在する都市の名である。

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