ウェブマガジン カムイミンタラ

1993年01月号/第54号  [ずいそう]    

カムチャッカ訪問
荒井 信雄 (あらいのぶお ・ 北海道地域総合研究所専務理事)

1992年9月、カムチャツカに行ってきました。ユーラシア大陸の最東端から振り下ろされたナタのような半島は、面積では日本に匹敵しますが、人口は50万人足らず。89年の初めまでは外国人の立入りがほとんど不可能な「要塞地帯」でした。NHKの番組で何度か紹介されたクロノツキー自然保護区は、この半島の南東部、太平洋に面しています。経済調査という本業の合間をぬって、ヘリコプターでクロノツキーにでかけました。道路がない、立ち入りが厳しく規制されているなどから、ヘリコプターが唯一の交通手段です。

保護区のほぼ中央部に位置するカルデラに火山研究所の観測ステーションがあり、火山学と生物学の研究者が交代で勤務しています。直径10キロほどの火口原は無数の温泉と湖、そして草原に覆われています。私たちは久しぶりの訪問者ということで、2人の研究者が案内に立ってくれました。

いたるところに熊の足跡があります。カルデラに刻まれた谷を隔てて、かなり大きな、ベージュといってよいほど毛色の薄いヒグマが一頭みえています。私たちに気づいているようです。

「この季節は熊の好物のコケモモがたくさんあって、このカルデラのなかを3家族の熊がテリトリーにしている。牧場で牛が草を食べているのと同じことで、彼らを脅かしさえしなければ、50メートルぐらいまで近づいても危険はない」とのことです。とはいえ、私たちは双眼鏡で遠くからながめるだけにしました。なにしろ、生物学者によれば、「コケモモが終わると、熊がわれわれを見る目が変わる。餌を見る目になる。そうなると、私たちでも恐い」というのですから。

「次に来るときはぜひ泊まっていらっしゃい。この自然は駆け足で見るものではありません」。2人の研究者の優しさは、しかし、慌ただしい来訪者への批判でもあったように思います。

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