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1993年07月号/第57号  [ずいそう]    

生涯現役
弥永芳子 (やながよしこ ・ 弥永北海道博物館館長)

――還暦を迎えたとき、あと10年のあいだに仕事を片付けて、古希を迎え、ゆとりある静かな生活を送りたいと思ったものだった。ところが、古希を前にして思いがけず博物館を建てることになり、夢中になって山や川の調査に駆け回り、気が付いたら古希は、はるかに過ぎ去り、「ゆとり・静寂」を愛する心境にはほど遠い毎日を送っている。傘寿(さんじゅ)が近くなったこのごろになって、やっと少しは自分を見つめられるようになってきた。

人間は裸で生まれてきて、やがて独りぼっちで土に還(かえ)って行くものであると割り切ったつもりでいても、砂を噛(か)むような孤独に襲われることがある。そんなとき、人間は一人残らず同じ道を歩いて行くんだと思うと、心が落ち着く。これをくり返して少しずつ孤独に慣れ、なおかつ好奇心を失わず、新鮮な感動する心を持っている人は、年齢とはかかわりなく現役である。先が見えてきたからであろう、自分で自分に語りかけ、励ますことが多くなってきた。

以上は、2月に新聞社からの依頼で書いたコラムです。意外にも多くのお年寄りからお手紙や電話をいただき、その反響の大きさに驚かされました。「励まされました」「頑張ってください」「わたしも何かを始めます」「何かしたいと思うが気力がありません」。励ましや羨ましそうなもの、さまざまですが、お年寄りは一様に寂しさと残酷な老いへの恐怖を心の底にしまっていることを痛感させられました。年寄りの不安と孤独を若い人や健康に自信ある人に理解せよ、ということが、どだい無理だということが、自分が老いてはじめてわかりました。

元気なあいだは、旅行も、食べ歩きも、ゲートボールもいい。だが、70歳を過ぎるころになると、足が痛むとか、血圧がどうとかで、友人は一人抜け、またも抜けで、結局独りぼっちになります。

なんでもいいから好きな趣味、生きがいを持ってください。一つに、お金のかからないこと。二つに、一人でできること。70歳からはじめても、平均寿命まで15年もあります。この第二の人生は、自分だけのために大切に使いたいものです。

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