藻岩の春は、キタコブシの花にはじまる。枯れ木の間に点々と真っ白な花が咲く。まるで北国の春をよろこぶ花火のようだ。雪解の水が一気にあふれ、路傍の側溝にとうとうと音をたてて流れる。刷いたようなうす緑のカラマツの間に、点々と赤い芽の美しいのがカツラだ。エゾヤマザクラが散るころ、カッコウの声が澄んだ空気をゆるがせる。
夏が来る。山は一面濃い緑一色に塗りつぶされ、その中にセミの声がきこえる。エメラルドグリーンの丸い葉を風にそよがせるカツラの木が、ひときわ涼しげだ。護岸工事のあとも幸に残された山鼻川の川底で、カジカやザリガニを採る子らの姿も愉しげだ。2メートルにも伸びたイタドリに混じって、マチヨイグサが叙しげな黄色の花を咲かせる。
短い夏があわただしく去ると、秋は足ばやにやってくる。木々が日ごとに色づき、やがて山全体が明るい黄褐色に染まる。川辺の道を歩めば、カツラ、エゾイタヤ、センノキ、ホオノキの黄金色の落葉が音もなくはらはらと散りかかる。ひときわ鮮やかなのはナナカマドの紅葉。それにも負けない紅い実を求めて、ヒヨドリやツグミの声がけたたましい。
こんな秋のある日、芥川賞作家の加藤幸子さんが訪問され、藻岩山をご一緒に歩いたあと、わが家のゲストブックに書いてくださった。
「夢のように美しい先生のお宅のまわりをお散歩しました。次回は雪の世界で…。加藤幸子」
そう、12月も下旬になると、藻岩も一面の銀世界となり、待望のスキーシーズンが始まる。いつもは閑散としたわが家の前の道も、日曜などはスキーをのせた車で埋めつくされる。そんな混雑を尻目にスキーをかついで、ものの10分も歩けば、そこはもう藻岩市民スキー場だ。ここの林友観光が65歳以上の若年寄り(?)に「敬老優待パス」を発行してくださっているのはまことにありがたい。その恩典も、こんどで6シーズン目となる。私の気に入りは兎平。それからリフトを乗りついで山頂へ。ここからゲレンデを下り、林間滑走してくると、もうわが家だ。スキーを脱ぐとまずビール。やっぱり藻岩は冬が一番たのしい。